「貧困層の心理学」は、貧困が人の心理や行動、認知機能に与える影響を研究する分野です。貧困は経済的な制約だけでなく、社会的な疎外感や心理的な負担、自己評価の低下など、さまざまな側面で人々の生活に影響を及ぼします。これらの影響はしばしば深刻で、人生全般にわたって持続することが多いため、貧困を経験する人々の心理や行動、そしてこれらが貧困のサイクルにどう関与しているかを理解することが重要です。
貧困が心理に与える主な影響
不安とストレス
貧困は、常に生活や将来の不安といった慢性的なストレスをもたらします。日々の生活費や住居の確保、食事のやりくりといった基本的なニーズが満たされないため、「どうやって生き延びるか」というプレッシャーを抱え続けることになります。この慢性的なストレスは心の健康に悪影響を与え、不安うつ状態のリスクを高めます。
自己評価の低下と無力感
貧困により自己評価が低下します。経済的な制約により、希望する教育や職業に就けなかったり、周囲との比較で劣等感を感じたりすることで、「自分には価値がない」と感じます。この低い自己評価は、将来の目標を設定したり、貧困から抜け出そうと努力する動機を抑制してしまいます。また、度重なる挫折経験が無力感を引き起こし、状況を変えようとする努力を放棄する原因となります。
意思決定の偏りと短期的な視点
貧困の状況下では、日々の生活のため短期的な視点で物事を考えざるを得なくなります。将来的な利益よりも目先の必要性を優先するため、しばしば衝動的な決断をしてしまい、これは「貧困の罠」を強化する要因となります。たとえば、急場しのぎの借金や、短期間で利益が得られる非正規雇用を選ぶことで、長期的には経済的な安定を損ねる結果となります。
学習意欲や動機の低下
貧困は教育機会にも影響し、学習意欲を低下させる要因となります。家庭内での教育リソースや支援が限られていると、勉強に対する自信や興味が薄れ、自己成長のための意欲も低くなります。また、学習に対する価値を見出せなくなると、将来のチャンスに対する興味も失われ、自己改善を図るモチベーションが低下します。
社会的孤立と人間関係の困難
貧困状態にある人は、経済的な制約から社会的な場に参加しづらくなり、人間関係が疎遠になります。社会的な孤立感は心理的な負担を増大させ、ストレスや抑うつ感を悪化させます。また、自己評価の低さから他者との関係に消極的になり、対人関係が制限されることで、孤立感がさらに深まるという悪循環が生じます。
貧困がもたらす心理的行動パターン
衝動的な行動と依存行動
貧困は短期的な視点を強調し、時に衝動的な行動を助長します。これはストレス解消や自己価値を一時的に感じるための手段として、アルコールやギャンブル、喫煙などに依存する行動が含まれます。これらの行動は短期間での満足を得る手段ですが、長期的には貧困を悪化させるリスクとなります。
回避行動と無気力
貧困の中で度重なる失敗や挫折を経験すると、「どうせ努力しても報われない」という無力感から、行動を避ける傾向が強まります。この回避行動は新しい仕事や学びの機会に対しても及び、将来の改善に向けた努力を妨げる要因となります。
物質主義的傾向
経済的に制約されていると、「お金があればすべてが解決する」という考え方に陥ります。これは、貧困により自己肯定感が低下し、物質的な成功に固執する傾向が強まるためです。物質主義的な傾向が強まると、金銭的な目標を達成できない状況がさらなるストレスを引き起こし、悪循環が生じます。
貧困が心理や行動に及ぼす影響を軽減する方法
カウンセリングや心理支援
貧困による精神的な負担やストレスを軽減するために、カウンセリングや心理支援が重要です。専門家のサポートを通じて、自己肯定感を取り戻し、感情を適切に処理するスキルを学ぶことができます。特に認知行動療法(CBT)は、貧困による否定的な思考パターンを改善し、自己効力感を高めるために有効とされています。
教育機会の拡充とスキル訓練
貧困層に対して教育や職業訓練の機会を提供することで、自己改善の意欲を引き出し、経済的な自立を促すことが期待されます。教育は自己成長と社会的参加を促すため、心理的な健康にも良い影響をもたらします。スキルの獲得により自己評価が高まり、長期的な視点での計画を立てやすくなります。
社会支援とネットワーク形成
地域コミュニティや支援団体を通じて社会的なつながりを作ることで、孤立感を軽減し、心理的な安定が得られます。特に同じ境遇にある人々との交流は、自己評価の回復や無力感の緩和に役立ちます。また、社会的な支援を受けることで必要なリソースや情報にアクセスしやすくなり、生活の安定が促進されます。
マインドフルネスやセルフケア
貧困のストレスからくるネガティブな感情や衝動的な行動を抑えるために、マインドフルネスやセルフケアが役立ちます。自分自身の状態を客観的に見つめ、今あるリソースを有効活用する意識を育むことで、ストレスを軽減し、自己効力感を高めることが可能です。
自己効力感を高める小さな成功体験
貧困の中で無力感に陥りやすい人にとって、小さな成功体験の積み重ねが重要です。目標を達成する経験を通じて、自己評価が高まり、自分の力で状況を改善できるという自信がつきます。たとえば、小さな節約目標や短期間でのスキル習得といった具体的な目標設定が効果的です。
公開年:2019年 製作国:韓国 監督:ポン・ジュノ
映画は、貧困層のキム家と裕福なパク家の間で繰り広げられる物語を描いています。キム家の家族は、半地下の狭いアパートで生活しており、機会を求めて日々をやり過ごしています。一方、パク家は豪華な住宅に住む裕福な家族です。ある日、キム家の長男ギウが友人から裕福な家族の家庭教師のバイトを紹介されます。これがきっかけでキム家の家族は次々とパク家に侵入し、家庭教師や家政婦など、家族全員が偽りの身分でパク家に雇われるようになります。しかし、その裏に隠された秘密が徐々に明らかになり、予想もしなかった悲劇が両家族を襲います。
父ギテク、母チュンスク、息子ギウ、娘ギジョンのキム家の4人は、狭く薄汚れた半地下のアパートに住んでいた。全員失業中で、近隣のパスワードの掛かっていないWi-Fiを使ったり、近所のピザ屋の宅配箱を組み立てる低賃金の内職をしてなんとか生活していた。ある日、ギウの友人で名門大学に通う青年ミニョクが訪れ、富をもたらす山水景石という岩を手渡す。ミニョクは、自分が留学する間パク家の女子高生ダヘの英語の家庭教師をやらないかとギウに提案する。浪人中のギウは教える資格がないとためらうが、高い報酬のこともあり仕事を受けることを決意した。ギジョンに名門大学の入学証書を偽造してもらうと、ギウはケビンという大学生のふりをして高台の高級住宅地を訪れ、家政婦のムングァンに迎えられる。立派な邸宅は、もともと有名な建築家が自ら建築し住んでいたのだという。パク夫人も授業の様子を観察する中、物怖じしない態度でダヘの授業を終えたギウはパク夫人の信頼を得、英語の家庭教師の仕事が正式に決まる。帰り際、壁に息子ダソンの描いた絵が飾ってあることに目をつけたギウはパク夫人が絵の家庭教師を探していることを聞き出す。ギウは一人思い当たる人物がいる、とパク夫人に言う。
後日、ギウの大学の後輩を装ってギジョンがジェシカとしてパク家を訪れる。人の良いパク夫人は疑うことを知らず、権威にも弱かった。インターネットで調べた専門用語を使って達者に話すギジョンはすっかりパク夫人に信用され、ダソンに絵を教える先生として雇われる。その夜、仕事を終えたパク氏が帰ってきた。パク氏は夜道を女性ひとりで歩かせるわけにはいかないと、運転手にギジョンを送るよう言う。その車中、運転手はしつこく家まで送ると言うが、家を知られるわけにはいかないギジョンは断る。ギジョンは策略を巡らせこっそりとパンティーを脱ぎ、助手席の下に下着を押し込んだ。翌日車からパンティーを発見したパク氏は運転手が自身の車をコカイン漬けのカーセックスに使ったと考え解雇する。運転手がいなくなり困っているパク家に、ギジョンは親戚に良い運転手がいると言う。こうして、父ギテクも、パク家に運転手として雇われた。
パク家に仕える家政婦のムングァンは建築家の代からこの家で家政婦をやっており、食事を2人前食べる以外は欠点らしい欠点がない。ムングァンがひどい桃アレルギーだと知ったギウは家族と策略を巡らせ、ムングァンに桃の表皮の粉末を浴びせる。ギテクはパク夫人に韓国で結核が流行しているという話と、ムングァンを病院で見かけたという話を吹き込む。アレルギーで咳き込むムングァンやソースによって血のついたように偽装されたティッシュを見せられたパク夫人はムングァンが結核患者だと確信し、解雇する。新しい家政婦は必要だが誰でも良いわけではなく困っているパク氏に、ギテクはパク家に雇われる前にスカウトの話があったという架空の高級人材派遣会社の名刺を渡す。名刺の連絡先はギジョンのガラケーにつながり、シナリオ通り年収の証明などの煩雑な手続きをアナウンスし信用を高めて送り込まれた母チュンスクは、パク家に新しい家政婦として雇われることになる。こうして、キム家の4人は全員が家族であることを隠しながら、パク家への就職に成功した。ただ一人、息子ダソンだけが、同時期に就職してきた4人が同じにおいをしていることに気づいた。
ダソンの誕生日、パク一家はキャンプに出発する。留守はチュンスクに任された。キム家の4人は大豪邸で自分の家のように振る舞い、パク氏の洋酒を飲み、ふざけあいながら贅沢を楽しむ。ギウは、恋仲になったダヘと将来結婚する夢を語る。激しい雷雨となった夜、インターホンが鳴った。来訪者は解雇されたムングァンで、地下に忘れ物があるから家に入れてほしいと言ってきた。他の3人は隠れ、チュンスクは仕方なくムングァンを家に入れる。ムングァンが隠し扉を開くと、地下室にはムングァンの夫のグンセがいた。韓国の富裕層は北朝鮮のミサイルや借金取りから逃れるための地下室を作ることがあるというが、建築家のあとに入居したパク家は地下室の存在を知らなかった。それをいいことに、ムングァンは夫を借金取りから隠すためにこっそりと地下室に住まわせていたのだ。ムングァンがチュンスクに夫婦の秘密を守って欲しいと懇願していると、隠れて盗み聞きしていた3人が足を滑らせて出てきてしまう。ムングァンはとっさに自身のスマートホンでキム一家が足を滑らせた後の言動や会話を動画撮影する。ムングァンは、キム一家が家族でありパク一家を今まで欺いてきたことを、撮影した動画をカカオトークでパク夫人に動画を送信することで暴露すると脅す。
不幸にも地下室には電波が届いていた。キム一家とグンセ・ムングァン夫妻がスマートホンの取り合いで揉み合いになっているところに、パク夫人から電話がかかってくる。大雨でキャンプは中止になったのだ。間も無く帰宅することをチュンスクに知らせるとキム一家はグンセとムングァンを地下室に押し込み、手足を縛り上げ、慌ててパク家で勝手に振る舞っていた証拠を隠蔽。チュンスクはパク夫人に頼まれたジャージャーラーメン作りをする。ムングァンが再び地下室から出てこようとするも、チュンスクによって階段から突き落とされ、脳震盪を起こす。グンセは地下にある家の照明のスイッチを押し、カブスカウトで覚えたモールス符号で助けを求めるも、メッセージはダソンにしか理解されず状況は変わらなかった。
パク一家が戻ると、3人は再び身を隠す。庭にテントを張ってキャンプを続けるダソンを見守りつつパク氏は3人のすぐそばで運転手のギテクの体臭がキツいと軽口を叩く。夜更けにパク氏は妻の乳房を揉みしだく。妻は近くに息子がいることから抵抗するが、乳首や股間をまさぐられると観念し、快楽に身を委ねた。キム家の3人は、パク家が寝落ちした隙を突いて豪邸から逃げ出すことに成功したが、ギジョンは計画外の連続に混乱する。ギテクはなだめるように自分に「計画」があると話した。半地下のアパートに戻ると、自宅は大雨で溢れた下水で浸水している。3人は避難所となった体育館で一晩を明かした。寝床で「計画」の詳細についてギウが聞くと、ギテクは「計画というのは無計画だ。計画があるから予定外のことが起こる。計画しなければ予定外のこともない」と話す。これを聞いたギウは、無謀な計画を考案したことをギテクに謝罪し責任をとると発言した。
翌日、パク一家はダソンの誕生日パーティーを開くことを決め、ギテクとギウとギジョンの3人も招待されることになった。パク夫人は買い出しに出掛けるが、運転中のギテクは夫人の「大雨のおかげで最高の天気になった」という無神経な発言や、水害でさらに悪化したギテクの体臭に顔をしかめる行為に苛立ちを募らせていく。庭で大騒ぎする群衆をよそに、閉じ込めたままのグンセとムングァン夫妻が気がかりなチュンスクとギジョンは和解の道を探るために食料を持っていこうとするが邪魔が入る。入れ替わりにギウは山水景石を持って地下室を訪れるがギウは岩を落としてしまい、逆にグンセに殺されそうになる。なんとか地下室を脱出するギウであったが、地下室を出たところでついにグンセに追いつかれ、岩で頭を殴られて意識を失う。その後、グンセはキッチンで包丁を手に取ると、パーティーに乱入し、ギジョンを刺す。「幽霊」のグンセを見たダソンは失神してしまう。ギテクがギジョンを助けようと急いでいると、パクはダソンを病院に連れて行くと運転手のギテクに叫ぶ。ギテクは彼に車のキーを投げるが、キーは揉み合っているチュンスクとグンセの下に落ちてしまう。チュンスクは斬りつけられながらもなんとか肉串でグンセを刺し殺す。パク氏は車のキーを取り戻すが、グンセの酷い体臭に思わず後ずさる。その反応を見たギテクは、衝動的にパクを刺し殺してしまう。
数週間後、ギウは昏睡状態から目覚めた。チュンスクとともに文書偽造と住居侵入の罪で裁判にかけられたが、執行猶予付きの判決を得たため収監されることはなかった。刺された妹のギジョンは死亡し、ロッカー式納骨堂に納骨された。一方、パクを殺したギテクは騒動後行方不明になっていた。ギウは山に登り、かつて働いていた大豪邸を見下ろす。そこで家の電灯がモールス符号の明滅をしていることに気づく。モールス信号は父からの手紙だった。ギテクは事件後に逃亡が不可能であることを悟り、ずっとあの地下室に潜んでいたのだ。手紙によると、事故物件のためパク家が去った後しばらくは空き家だったが、今は何も知らない外国人が入居しており、ギテクは家から食べ物を盗みながら地下室での孤独な生活を続けるつもりだという。ギウは、いつの日か邸宅を購入して父親を解放するという「計画」を立て、必要な金を稼ぐことを誓う。