
精神医学における「レジリアンス」は、心の病気やトラウマ的な体験から立ち直る心理的な力やプロセスを意味します。特に、うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害などのリスクにさらされた人が、なぜ発症しない場合があるのか、あるいは一度発症しても回復できるのかという観点で、レジリアンスが注目されています。
🧠 精神医学でのレジリアンスの主なポイント
1. 防御因子(Protective factors)
レジリアンスは「精神的な免疫力」のようなもので、ストレスやトラウマの影響を和らげます。以下のような要素が関係します:
- 安定した愛着関係(家族や友人とのつながり)
- 自己効力感(「自分にはできる」という感覚)
- 楽観性(前向きな考え方)
- 問題解決能力
- 感情調整力(感情をコントロールする力)
2. 遺伝と環境の相互作用
レジリアンスは生まれ持った性質(遺伝)と、育った環境(家庭、学校、社会)両方から影響を受けます。つまり、「レジリアンスが高いか低いか」は変えられないものではなく、育てることができるというのが現代精神医学の考えです。
3. トラウマ後成長(Post-Traumatic Growth)
重い精神的ダメージを受けた後でも、人は「以前よりも強くなった」と感じることがあります。これを「トラウマ後成長」といい、レジリアンスと密接に関連しています。
🔄 レジリアンスを高めるための治療・介入法
精神医学では、以下のようなアプローチでレジリアンスを高めることが研究・実践されています:
- 認知行動療法(CBT)
- マインドフルネス(今この瞬間に注意を向ける練習)
- 社会的支援の構築
- ストレスコーピングのトレーニング
- 意味づけの支援(「なぜこの体験をしたのか」などの再解釈)
🧩 事例①:トラウマとレジリアンス ― 震災体験後の回復
背景:
40代女性、東日本大震災で家族と自宅を失い、避難所生活を余儀なくされる。震災直後はPTSDの症状(フラッシュバック、不眠、過覚醒)が強く、希死念慮も出現。
介入と経過:
支援スタッフとの定期的な面談、グループセラピー、マインドフルネス療法、CBTを実施。最初は閉じこもりがちだったが、同じ体験を持つ人との関わりを通して「話すこと」に意味を見出すようになる。
レジリアンスの要素:
- 社会的つながり(グループ支援)
- 意味づけ(自身の体験を語る)
- 自己効力感(「私にも役割がある」と感じる)
結果:
半年後、地域活動に積極的に関わるようになり、PTSD症状も大幅に軽減。心理的にはむしろ震災前よりも強くなったと自己評価。
🧩 事例②:家庭内虐待からの回復 ― 児童養護施設での支援
背景:
中学生男子、幼少期より虐待を受けており、情緒不安定・攻撃性あり。施設入所後も対人関係が不安定で、退学リスクが高かった。
介入と経過:
信頼できる職員との一貫した関係性構築を最優先。アートセラピーや感情表現の練習を導入し、「気持ちを言葉にする」訓練を段階的に実施。
レジリアンスの要素:
- 安定した養育環境
- 信頼できる大人の存在
- 自己表現の機会
結果:
暴力的な行動は減少し、数年後には高校に進学。支援スタッフの言葉を借りて「人は変われる」と語れるまでに成長。
🧩 事例③:職場の過労・うつ病からの回復
背景:
30代男性、IT企業勤務。過重労働と人間関係のストレスによりうつ病を発症。休職中に「自分には価値がない」という強い自己否定。
介入と経過:
精神科での薬物療法と並行して、復職支援プログラムに参加。認知の歪みの修正、ワークライフバランスの再構築を目指した。
レジリアンスの要素:
- 自分の限界を知る力
- 新しい価値観の獲得(働き方・生き方の見直し)
- 家族や同僚の理解と支援
結果:
復職後は「完璧でなくてもいい」と考えられるようになり、精神的な柔軟性が増す。以前よりも感情の安定が見られるようになった。