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精神医学

高機能・依存症

緒言

「高機能アルコール依存症」とは「高機能(能力・地位)・高学歴・高収入」などを得ながら、アルコールに依存している者である(一部改変)。

米国保健福祉省の発表(2007年)によると、国内1800万人のアルコール依存症者のうち、慢性・重症者(住所不定・高齢・男性など)は9%に過ぎず、30%若年、20%「高機能」であることが明らかにされ、最高50%「高機能」であると推測された。

「高機能アルコール依存症者」はアルコールを依存・乱用しつつも、職務は遂行し、法律に違反する行為も犯さないため、見過ごされている可能性が高い。しかし、詳細に観察すると、罹患前に比較し、遂行機能は低下し、職場や家庭で問題視されている者も少なくない。

症例
29歳、女性、教師


父は「大酒家」アルコール依存症であったが、病識はなく未治療だった。父は酩酊すると大声で母や本人・妹を叱責、母へ手を上げることもあった。しかし、父は中学校校長を務め、昼は勤勉・実直、校内でも「良い先生」と生徒・保護者から尊敬されていた。

父は帰宅すると晩酌するのが日課で、飲酒量も限られていた。しかし、宴席などで深酔いすると、帰宅するなり、母や本人・妹らへ大声で怒鳴り散らした。理不尽な内容もあれば、教師として本人・妹らへ教育論を説いた。本人・妹らは昼と異なる父を恐れ、夜は父の帰宅前に就寝した。

母は情緒不安定、家の外と内とで姿の異なる父の愚痴を本人・妹へこぼした。および母も元教師であったため、本人・妹らへ父と同様に教育論を説き、家庭学習を強いた。このため本人・妹は幼少期より家庭を「安全基地」と思うことできず、両親の顔色をうかがい育った。

症例
29歳、女性、教師

本人・妹は両親の期待にこたえるべく、勉学にいそしんだ。本人は成績優秀、地元・進学校を経て、両親を見習い、国立大学・教育学部へ進学した。しかしそれは両親の意向であり、本人の希望と異なった。本人は実のところ、何を学びたいのか、どのように生きたいのか分からなかった。

それでも成績優秀にて、教員免許を取得、教員採用試験もそつなく合格した。20代前半は小学校教員として無我夢中に勤務した。迷った時は先輩の女性教員に相談し、一人前の教員になろうと努力した。

20代後半となり「ゆとり教育」および「少子化」に伴い、学校の様子は変化した。「ゆとり」の反面、子どもたちは教員の指導に従わず、授業を妨害する子どもも少なくなかった。次第に「学級崩壊」を呈し、本人も先輩も悩んだ。

症例
29歳、女性、教師

毎晩先輩に居酒屋で相談しつつ、帰宅後も飲酒する習慣になった。飲酒なしでは眠れなくなった。そして、深酔い・二日酔いのため、遅刻を繰り返した。状況を心配した先輩は教頭と相談、本人へ精神科の受診を勧めた。

本人は自分が父親と同じ飲酒問題で、精神科を受診することになることを受け入れ難かった。診察では「アルコール依存症」として断酒剤ほか処方、自助グループへの参加を勧められた。身体の異常は認められず、経過観察・就労継続と判断された。

考察

「高機能・依存症」の症例である。「20代女性教員」ながら「酒に飲まれ」「仕事に穴を空けて」しまい、職場の指示により、精神科の受診に至った。誘因は職場不適応であるが、遺伝素因あり、生育歴は葛藤多く、職場不適応の要因と考えられる。

このような症例は従来の「住所不定・無職・高齢男性」と程多い社会水準にある。「アルコール依存症」という病態生理は同様であるが、治療法は工夫しなければならない。新たに認可された脳に作用する減酒薬は比較的、受け容れられるだろうが、自助グループへは参加しがたいであろう。症例においては家族歴・生育歴を振り返る必要もあり、個人カウンセリングを必要と考える。

国内の精神医療が2000年以降10−20年で劇的変化を遂げたように、アルコール依存症をはじめとした、各種の依存症に対し、医療・福祉機関における、早急な変化が求められる。

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