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精神医学

過眠症の精神医学

1. 過眠症とは?

過眠症(Hypersomnia)は、夜間の十分な睡眠にもかかわらず、日中に過度の眠気(EDS: Excessive Daytime Sleepiness)が生じ、生活に支障をきたす睡眠障害です。精神医学的には、過眠症は神経伝達物質の異常、概日リズムの乱れ、精神疾患との関連が指摘されています。

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、「特発性過眠症(Idiopathic Hypersomnia)」として分類され、ナルコレプシーなどの他の睡眠障害と区別されます。


2. 過眠症の分類(DSM-5基準)

① 特発性過眠症(Idiopathic Hypersomnia, IH)

  • 原因不明の過眠状態が6か月以上続く。
  • 夜間の睡眠時間が長く(10時間以上)、目覚めが困難。
  • 昼間の居眠りは回復効果が少なく、リフレッシュされない。

② ナルコレプシー(Narcolepsy)

  • 突然の眠気発作と情動脱力発作(カタプレキシー)が特徴。
  • オレキシン(ヒポクレチン)という神経伝達物質の欠乏が原因。

③ 睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea, OSA)

  • 睡眠中に呼吸が一時的に停止し、夜間の酸素供給が低下することで日中の眠気を引き起こす。
  • 精神疾患(うつ病、不安障害)との関連性が強い

④ 概日リズム睡眠障害(Circadian Rhythm Sleep Disorders)

  • 睡眠相後退症候群(Delayed Sleep Phase Syndrome, DSPS)
    → 極端な夜型生活により、社会生活と睡眠リズムが合わなくなる。
  • 交代勤務睡眠障害(Shift Work Sleep Disorder)
    → 夜勤などで体内時計が乱れ、過眠を引き起こす。
  • うつ病の症状の一つとして過眠がみられることがある。
  • 「逃避睡眠」として機能することがあり、ストレスの回避行動の一環。

3. 過眠症と関連する精神疾患

① うつ病(Major Depressive Disorder, MDD)

  • 過眠症状(特に非定型うつ病で顕著)がみられる。
  • セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの低下が関与。
  • 「疲れて眠い」というよりも、「エネルギーがなく、起きられない」という感覚。

② 双極性障害(Bipolar Disorder)

  • 抑うつ相での過眠が特徴的
  • 双極II型では、抑うつ期に過眠が顕著であり、通常のうつ病よりも長時間眠る傾向
  • 躁転の前兆として、睡眠リズムが変化することもある

③ 非定型うつ病(Atypical Depression)

  • 過眠、過食、鉛様麻痺感(体が重い感じ)が特徴。
  • ノルアドレナリンやドーパミンの機能低下が関与。

④ PTSD(心的外傷後ストレス障害)

  • PTSD患者の一部は、ストレス回避のために過眠傾向を示す

⑤ ADHD(注意欠如・多動症)

  • ADHDの成人では、昼間の眠気が強いことが多い
  • ドーパミンとノルアドレナリンの調節異常が関与。
  • 夜更かしが多く、結果的に昼間に過眠状態になる。

4. 過眠症の神経生理学的メカニズム

① 神経伝達物質の異常

  • オレキシン(ヒポクレチン)
    • 覚醒を維持する神経ペプチド。
    • ナルコレプシーではオレキシンの欠乏が確認されている
  • セロトニン(Serotonin)
    • 睡眠・覚醒リズムの調整に関与。
    • セロトニン不足 → 眠気が増加、抑うつ傾向。
  • ドーパミン(Dopamine)
    • 覚醒やモチベーションを調整。
    • ドーパミン不足 → 意欲低下、過眠の増加。
  • ノルアドレナリン(Norepinephrine)
    • 覚醒レベルの維持に関与。
    • ノルアドレナリン低下 → 眠気、注意力の低下。

② 概日リズムの異常

  • 視床下部の視交叉上核(SCN)が体内時計を制御
  • 概日リズムが乱れると、過眠や睡眠の質の低下が起こる

5. 過眠症の精神医学的治療

① 薬物療法

1) 覚醒促進薬

  • アトモキセチン(Atomoxetine): ADHD由来の過眠症状に有効。

2) 抗うつ薬

  • SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬): うつ病由来の過眠に効果的。
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): ノルアドレナリンを増やし、日中の覚醒レベルを向上。

3) ドーパミン作動薬

  • ドーパミンを増やし、覚醒を促進。
    • 非定型うつ病の過眠に有効。

4) メラトニン受容体作動薬

  • ラメルテオン: 睡眠リズムを整え、過眠の改善に寄与。

② 認知行動療法(CBT-I)

  • 睡眠衛生の改善(規則正しい生活習慣の確立)。
  • 昼寝の制限(30分以内にとどめる)。
  • 光療法(朝に太陽光を浴びることで、概日リズムを調整)。

③ ライフスタイル調整

  • 朝の運動(覚醒レベルを上げる)。
  • カフェインの適切な使用(夕方以降の摂取は控える)。
  • 規則正しい睡眠リズム(毎日同じ時間に起床)。

6. まとめ

  • 過眠症は単なる「眠りすぎ」ではなく、精神医学的・神経生理学的な異常が関与する病態
  • 特発性過眠症、ナルコレプシー、概日リズム障害、精神疾患由来の過眠など、複数の原因がある。
  • 神経伝達物質(オレキシン、セロトニン、ドーパミン)の異常が主要な要因
  • 治療には薬物療法(覚醒促進薬、抗うつ薬)、認知行動療法、ライフスタイル調整が有効。

過眠症は適切な治療で改善可能な病態であり、早期診断と介入が重要です。

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    2. ② ナルコレプシー(Narcolepsy)
    3. ③ 睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea, OSA)
    4. ④ 概日リズム睡眠障害(Circadian Rhythm Sleep Disorders)
    5. ⑤ うつ病に伴う過眠(Depression-related Hypersomnia)
  • 3. 過眠症と関連する精神疾患
    1. ① うつ病(Major Depressive Disorder, MDD)
    2. ② 双極性障害(Bipolar Disorder)
    3. ③ 非定型うつ病(Atypical Depression)
    4. ④ PTSD(心的外傷後ストレス障害)
    5. ⑤ ADHD(注意欠如・多動症)
  • 4. 過眠症の神経生理学的メカニズム
    1. ① 神経伝達物質の異常
    2. ② 概日リズムの異常
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    1. ① 薬物療法
      1. 1) 覚醒促進薬
      2. 2) 抗うつ薬
      3. 3) ドーパミン作動薬
      4. 4) メラトニン受容体作動薬
    2. ② 認知行動療法(CBT-I)
    3. ③ ライフスタイル調整
  • 6. まとめ
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