複雑性PTSD(C-PTSD)とは?
複雑性PTSD(Complex PTSD, C-PTSD) は、通常の**PTSD(心的外傷後ストレス障害)**とは異なり、長期間にわたるトラウマ体験によって引き起こされる心の障害です。主に、虐待・DV・いじめ・戦争・人身売買 など、繰り返される深刻なストレスによって発症します。
1. C-PTSDとPTSDの違い
項目 | PTSD | 複雑性PTSD(C-PTSD) |
---|---|---|
原因 | 一度の強烈なトラウマ(事故・災害・暴行など) | 長期間にわたる繰り返しのトラウマ(虐待・DV・戦争など) |
主な症状 | フラッシュバック、過覚醒、回避 | PTSDの症状 + 感情のコントロール困難、人間関係の問題、自己否定感 |
影響 | 過去のトラウマが蘇る | アイデンティティや人格形成に影響 |
2. 複雑性PTSDの主な症状
C-PTSDの症状は、大きく6つのカテゴリーに分けられます。
✅ 1. PTSDの基本症状
C-PTSDには通常のPTSDの症状も含まれます。
- フラッシュバック(過去のトラウマが突然蘇る)
- 回避(トラウマを思い出させる状況を避ける)
- 過覚醒(常に緊張し、音や人に過敏に反応する)
✅ 2. 感情のコントロール困難
- 怒り・悲しみ・恐怖をコントロールできない
- 突然の強い不安やパニック発作
- 抑うつ状態が続く(うつ病を併発しやすい)
✅ 3. 自己イメージの歪み
- 「自分は価値のない存在だ」と思い込む
- 罪悪感や恥の感覚が強い
- 「自分のせいで虐待された」と考えてしまう
✅ 4. 対人関係の問題
- 他人を信じられない・依存してしまう
- 近しい人との関係が不安定
- 見捨てられることへの極度な恐怖
✅ 5. 認知の歪み(現実の認識が歪む)
- 世界を「危険な場所」と捉えがち
- 「誰も信用できない」と思ってしまう
- 極端な思考(白か黒か、全てか無か)になりやすい
✅ 6. 無力感・絶望感
- 「何をやっても無駄」と感じる
- 人生に希望を持てない
- 慢性的な虚無感や孤独感
3. C-PTSDの原因
C-PTSDは、長期間にわたるトラウマによって発症します。具体的には、以下のような経験が原因になりやすいです。
✅ 主な原因
- 幼少期の虐待・ネグレクト(育児放棄)
- 家庭内暴力(DV)
- 長期間のいじめ・ハラスメント
- 戦争・監禁・人身売買などの極端な環境
- カルト宗教などの心理的支配
4. C-PTSDの脳科学的な影響
C-PTSDは脳の機能にも影響を与えます。
脳の部位 | 役割 | C-PTSDの影響 |
---|---|---|
偏桃体(アミグダラ) | 恐怖や危険の処理 | 過剰に活性化 → 些細なことでも強い恐怖を感じる |
前頭前野 | 判断力・感情の抑制 | 機能低下 → 感情のコントロールが困難になる |
海馬(ヒッポキャンパス) | 記憶の整理・学習 | 萎縮 → フラッシュバックが起こりやすくなる |
特に、偏桃体の過活動と前頭前野の機能低下によって、感情を抑えられずに過剰に反応してしまうことが多いです。
5. C-PTSDの治療法
C-PTSDは時間がかかるものの、適切な治療で回復が可能です。
✅ 治療方法
- 認知行動療法(CBT)
- 「歪んだ認知(考え方)」を修正するトレーニング。
- 例:「自分は価値のない人間だ」という思考を修正する。
- EMDR(眼球運動による脱感作・再処理法)
- 眼球を左右に動かしながらトラウマを思い出すことで、記憶の再処理を行う。
- トラウマの影響を軽減できるとされる。
- スキーマ療法
- 幼少期のトラウマによる思考の癖(スキーマ)を修正する。
- 「どうせ私は愛されない」といった考えを和らげる。
- 薬物療法
- SSRI(抗うつ薬) や 抗不安薬 を使い、症状を緩和することもある。
- マインドフルネス・瞑想
- 「今この瞬間」に集中することで、フラッシュバックや過覚醒を軽減。
- 安心できる人間関係を作る
- 安全な環境での人間関係を築くことが、回復に非常に重要。
6. まとめ
✅ C-PTSDは、長期間のトラウマによって生じる心の傷。
✅ 通常のPTSDよりも、自己否定感・感情のコントロール困難・対人関係の問題が強い。
✅ 脳科学的にも、恐怖を感じやすくなる変化が起こる。
✅ 治療には、認知行動療法・EMDR・スキーマ療法・薬物療法などが有効。
✅ 回復には「安全な環境」「信頼できる人間関係」も重要。
C-PTSDは「治らない病気」ではなく、「時間と適切なサポートがあれば回復できる障害」です。
焦らず、自分に優しくしながら回復を目指すことが大切です。