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精神医学

抜毛症の精神医学

1. 抜毛症(トリコチロマニア)とは?

抜毛症(トリコチロマニア, Trichotillomania: TTM)は、自分の毛髪を繰り返し抜くことを特徴とする精神疾患です。
この行動は、ストレスや不安を和らげるために無意識に行われることが多く、やめたいと思っていてもコントロールできない点が特徴です。

DSM-5(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、抜毛症は「強迫関連障害群(Obsessive-Compulsive and Related Disorders)」に分類されています。
これは、抜毛症が強迫症(OCD)や身体醜形障害(BDD)と共通する病態を持つためです。


2. 抜毛症の診断基準(DSM-5)

DSM-5による抜毛症の診断基準は以下の通りです。

(1) 繰り返し毛を抜く

  • 頭髪、まつ毛、眉毛、腕、陰毛など、あらゆる体毛を抜く
  • 明確な理由がないにも関わらず、無意識に抜くことが多い
  • 抜毛によって、髪の毛が薄くなる・脱毛斑ができることがある

(2) 抜毛をやめようと試みても抑えられない

  • 抜毛をやめる努力を何度もするが、コントロールできない
  • 抜毛の衝動を感じ、それに抗えない

(3) 抜毛による苦痛や社会的影響

  • 見た目の変化が自己評価を下げる
  • 抜毛が原因で学校や仕事、対人関係に影響を及ぼす

(4) 他の疾患による脱毛ではない

  • 皮膚疾患(円形脱毛症、甲状腺疾患など)や薬剤の副作用が原因ではないことを確認する。

3. 抜毛症の脳科学的メカニズム

抜毛症は、「衝動制御の異常」「ストレス応答の異常」と関連し、特定の神経回路や神経伝達物質の機能異常が関与していると考えられています。

(1) 前頭前野(Prefrontal Cortex)の機能低下

  • 前頭前野は「衝動の抑制」に関与しているが、抜毛症患者では前頭前野の活動が低下している可能性がある。
  • その結果、「抜きたい衝動」を抑えられず、無意識のうちに毛を抜いてしまう

(2) 報酬系(側坐核, Nucleus Accumbens)の異常

  • 抜毛によって、脳の報酬回路(ドーパミン系)が活性化し、快感やストレス軽減が得られる
  • そのため、「毛を抜く → 一時的に気持ちが落ち着く」 という学習が成立し、習慣化しやすくなる。

(3) セロトニン(5-HT)機能の異常

  • 強迫性障害(OCD)と同様に、セロトニンの機能低下が関与している可能性がある。
  • そのため、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が一部の患者に有効

(4) グルタミン酸(Glu)の過活動

  • OCDやチック障害と同様に、グルタミン酸の調整異常が示唆されており、新たな治療ターゲットとして研究されている。

4. 抜毛症の心理学的要因

(1) ストレスや不安の軽減

  • 抜毛症の患者はストレスや不安を感じると、無意識に毛を抜くことが多い。
  • 抜毛が「一時的な安心感」をもたらすため、ストレス対処法として学習される

(2) セルフ・ソーシング(自己刺激)

  • 無意識のうちに毛を触ることで「落ち着く感覚」を得る。
  • これは、爪を噛む(咬爪症)や皮膚を掻く(皮膚むしり症)と類似している。

(3) 完璧主義・認知の歪み

  • 「1本だけ変な毛がある」「この部分だけ整えたい」という対称性へのこだわりが抜毛のきっかけになる。

(4) 幼少期の経験

  • 幼少期のストレスやトラウマが抜毛行動を助長する場合がある。

5. 抜毛症の治療

(1) 認知行動療法(CBT)

最も有効な治療法の一つであり、以下の方法が用いられる。

① 習慣逆転訓練(Habit Reversal Training: HRT)

  • 抜毛のトリガー(引き金)を特定し、別の行動に置き換える。
    • 例:「毛を抜きたくなったら、手を握る」「ストレスを感じたら深呼吸をする」
  • 手を使う別の習慣(ボールを握る、指を動かすなど)を学習する

② 曝露反応妨害法(ERP, Exposure and Response Prevention)

  • 「抜毛したい衝動」を感じても、実際に抜かずに耐える練習を行う。

③ 認知の修正

  • 「抜毛しないと気が済まない」という認知の歪みを修正する
    • 「抜かなくても大丈夫」「一時的な衝動であり、過ぎ去るもの」

(2) 薬物療法

薬物療法は第一選択ではないが、重症例では使用されることがある。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
    • フルボキサミン(ルボックス)、セルトラリン(ゾロフト)
    • OCDと共通したセロトニン異常の補正に効果が期待される
  • N-アセチルシステイン(NAC, グルタミン酸調整薬)
    • グルタミン酸系の過活動を抑え、衝動性を低減する。
  • 抗精神病薬(ドーパミン拮抗薬, 補助療法)
    • SSRI単独で効果が不十分な場合、アリピプラゾール(エビリファイ)やリスペリドンを併用する。

(3) 環境調整

  • 抜毛しにくい環境を作る
    • 手袋をする、帽子をかぶる
  • ストレスマネジメント
    • 運動、マインドフルネス、リラクゼーション

6. 抜毛症と関連する疾患

  • 強迫症(OCD)
    • 「やらないと気が済まない」性質が似ている
  • 皮膚むしり症(皮膚摘み障害, Dermatillomania)
    • 皮膚を掻いたり、むしったりする行動
  • チック障害・トゥレット症候群
    • 不随意な動作と関連がある可能性
  • 摂食障害
    • 身体イメージの問題と関連するケースがある

7. まとめ

抜毛症の特徴

  1. 無意識に毛を抜く
  2. 抜毛の衝動を抑えられない
  3. 一時的な快感や安心感を得る
  4. 前頭前野・報酬系・セロトニン系の異常が関与
  5. OCD・チック障害との関連

治療のポイント

  • 認知行動療法(CBT, HRT, ERP)
  • 薬物療法(SSRI, NAC, ドーパミン拮抗薬)
  • 環境調整(抜毛を防ぐ工夫)
  • ストレスマネジメント

抜毛症は精神医学的に治療可能な疾患であり、適切なアプローチで改善が期待できます。

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    4. (4) 他の疾患による脱毛ではない
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    1. (1) 前頭前野(Prefrontal Cortex)の機能低下
    2. (2) 報酬系(側坐核, Nucleus Accumbens)の異常
    3. (3) セロトニン(5-HT)機能の異常
    4. (4) グルタミン酸(Glu)の過活動
  • 4. 抜毛症の心理学的要因
    1. (1) ストレスや不安の軽減
    2. (2) セルフ・ソーシング(自己刺激)
    3. (3) 完璧主義・認知の歪み
    4. (4) 幼少期の経験
  • 5. 抜毛症の治療
    1. (1) 認知行動療法(CBT)
      1. ① 習慣逆転訓練(Habit Reversal Training: HRT)
      2. ② 曝露反応妨害法(ERP, Exposure and Response Prevention)
      3. ③ 認知の修正
    2. (2) 薬物療法
    3. (3) 環境調整
  • 6. 抜毛症と関連する疾患
  • 7. まとめ
    1. 抜毛症の特徴
    2. 治療のポイント
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