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精神医学

幼少期の逆境体験ACEsと複雑性PTSD

幼少期の逆境体験 ACEs. Adverse Childhood Experiencesとは、幼少期における心身の虐待・育児放棄などを意味します。具体的には18歳までの下記10項目が定義されています(aces aware一部改変)。

1. 十分な食事を与えられなかった、衣服が汚れていた、守ってくれる人や世話をしてくれる人がいなかった。
2. 離婚、死亡、育児放棄などから、親がいなかった。
3. うつ病はじめ精神疾患・自殺企図など生じていた人と生活していた。
4. アルコール・薬物依存症に罹患している人と生活していた。
5. 家庭で親や大人から、殴ったり蹴られたり突き飛ばされたりなど、危害を加えられたことがあった。
6. 収監された、あるいは実刑判決を受けた人と一緒に生活していた。
7. 家庭で親や大人から、けなされたり・ののしられたり・侮辱されたりした。
8. 家庭で親や大人から、殴る・蹴る・叩くなどの身体的な暴力を受けた。
9. 家族の誰からも愛されている、特別な存在だと思われていると感じたことがなかった。
10. 自分の望まない性的接触(愛撫、口内・肛門・膣内性交など)をされたことがあった。

先進国では一般人口の1/3以上がACEsに苦しんだことがあるという報告があります。その多寡の是非はともかく、幼少期の辛い体験は、思春期・青年期以降、精神疾患に罹患する可能性が高めます。具体的には、抑うつ症、依存症、パーソナリティ症などです。最近注目されている疾患概念に複雑性PTSD Complex PTSDが挙げられます。これはPTSDの診断基準;Traumaの再体験・回避・脅威の持続感覚(過覚醒)に加え、感情制御困難、否定的・自己概念、対人関係障害を認めます。Traumaは長期・反復・持続し、上記ACEsも含まれます。

Traumaは「こころ」を傷つけるのみでなく「脳・神経」も損傷します。具体的には下記が報告されています(日本心理学会より)。Trauma→扁桃体の過剰反応、海馬の容積減少、コルチゾール増加→減少(CRH -ACTH→Cotisol)→慢性炎症;CRPなどの増加…

CRPはじめ炎症性物質は身体を損傷する可能性あり、Traumaが様々な身体疾患の要因になりうることが想像されます。慢性炎症が寿命を縮めることも認められています。心身とも健やかに過ごすためには、心的外傷の回避・予防が望まれます。残念ながらACEsに遭い、C-PTSDに陥った方々への支援方法が推奨されています(acees aware改変)。

1. 「判断を交えない態度」を基本とする。
2. 幼少期に過酷な体験をした人特有の心理状態・行動様式を理解する。
3. 気持ちの持ち方のみでは、行動変化できないことを理解する。
4. 自分を大切にできないほど過酷な状況に追い込まれたことに共感する。
5. 支援の拒否、問題の再発などに寛容となる。
6. 反社会行動、違法行為には毅然とした対応を行う。
7. 自己決定できるような支援を行う。
8. 生活支援;住居・職業・学業・資格など。
9. 医療機関・福祉期間と連携する。
10. 自助グループ・民間支援期間と連携する。


補足説明とし、当事者は幼少期より、過酷な体験に遭い、無理を強要されてきました。そのため、支援者は既存の価値感にこだわらず、本人の自己選択・決定を尊重することが求められます。これが1. 判断を交えない態度、7. 自己決定をできるような支援となります。

最後に、当院では立地の関係もあり、冒頭に記した身体的に過酷なACEsに遭った方は多くありません。しかし「精神的ASEs」とも言える目立たないけれど、本人の価値観や人生観を歪めるような言動を受けてきた方が少なくないようです。具体的には、幼少期より受験勉強を強いられ、進学・就職、さらに結婚も家庭内外の親や大人から決められ、自分で人生の選択をできなかった方々です。このような方々は「生きがい」を覚えることなく「虚しさ」を訴えられます。少子高齢化が進む日本においてはこのような例が増えることが予想されるため、大人は子どもの「自主性」を伸ばす養育・教育を心がけるべきでしょう。

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