境界性パーソナリティー障害は、大別すると、対人関係の障害(対人関係が不安定で自己同一性が不確定)、行動コントロールの障害(衝動的行動が多いこと)、感情コントロールの障害(感情不安定で怒りが強いこと)の3種に分類されるという見解が示されています。
その原因は、脳内神経伝達物質セロトニン低下、偏桃体・過剰興奮、視床下部ー下垂体ー副腎系の機能低下など、生物学的な説明もされているが、不安・うつ状態と変わりなく、さほど疾患特異的な説明とは言い難いものです。翻り(ひるがえり)、心理学/生育歴の見地から振り返りますと、他の疾患とは明らかなに異なる問題が浮かび上がります。すなわち、幼少期における愛情不足、もしくは、過保護・過干渉、といった問題が必ずと言ってよいほど散見されます。さらに、重篤な症例、または、丁寧な聴取により、身体的・性的虐待、などが認められることさえあります。
これらは「発達心理学」の見地から言い直しますと「エリクソン(Erik Homburger Erikson)」の提唱した「基本的信頼(basic trust)」が獲得されうるかどうかということでしょう。すなわち「育ててくれる母親や父親への信頼感を通し、自分がこの世に存在することを肯定的にとらえ、人生に生きる意味や生存する価値があり、世界は信頼するに足るものだという感覚を抱くようになること」です。この反対が患者さんが皆おっしゃる「何のために生きているのか分からない、空しい、いつ死んでも構わない、誰も信じられない」という訴えに通じる訳です。
さらに「ボウルビィ(John Bowlby)」の提唱した「愛着理論 Attachment theory」は上記「基本的信頼感」の前提となる概念と言えるのではないでしょうか。これは「乳幼児が、特定の対象との情緒的な結びつきを通し、情緒的な相互作用を通して形成される、『特定の対象』は哺乳類の場合、母乳保育を行う母親であるが、必ずしもそれである必要はない」とされています。すなわち、虐待的な母親が養育者の場合、父親などがそれに代わりうるということです。