「固執の心理学」とは、個人が特定の考えや行動に固執し、それを変えることが難しくなる心理的な過程や機序を理解する研究分野です。「固執」を日常用語にすると、こだわり、執着、頑固などです。
- 認知の固定化
特定の考え方や信念に固執し、柔軟に新しい情報や視点を取り入れることが難しくなる現象です。問題解決が困難になり、適応的な行動が阻害されます。「自分は失敗するに違いない」といった思い込みが強いと、それに反する証拠を無視してしまいます。 - 認知的不協和
矛盾する認知が同時に存在するときに生じる不快感を説明する理論です。人々はこの不快感を軽減するために、固執した行動や信念を正当化し、現実をそれに合わせて歪めることがあります。喫煙者が「タバコは健康に悪い」と知りながらも「喫煙はリラックスさせてくれる」と考え、喫煙行動を続けることが挙げられます。
酸っぱい葡萄(イソップ童話) - 自己効力感
自分が特定の課題を成功裏に遂行できるという信念です。自己効力感が高いと、目標達成のために努力を続けることができ、肯定的な固執(持続性や粘り強さ)を生じます。自己効力感が低いと、否定的な固執(同じ失敗を繰り返すなど)が生じます。 - 習慣と自動化
固執した行動は「習慣」となっており、意識的な制御を必要とせず「自動化」されています。習慣は、繰り返される行動が脳に定着することで形成されます。この過程により、特定の行動や思考が「固定化」され、状況が変わっても変えることが難しくなります。 - 強迫と固執
固執は、強迫症などの精神疾患と相関します。強迫行為は、個人が不安を軽減するために特定の行動を繰り返すことです。手を繰り返し洗う行為が、汚染への不安を軽減する手段として固執されます。 - 不安と固執
不安は、固執の強力な要因となります。高い不安を感じる状況で、人々はコントロールを覚える行動や思考に固執します。これにより、不安を和らげるための行動や思考が強化され、固執が生じるのです。 - 動機づけと固執
動機づけの強さは、固執に大きく影響します。強い内的動機づけを持つ人は、困難な状況でも目標達成のために努力を続けることが多く、肯定的な固執を示します。逆に、外的動機づけや報酬に強く依存する場合、報酬が得られないときに否定的な固執(目標達成の放棄や無力感)が生じることがあります。 - 社会的影響
固執は、社会的な圧力や期待によっても強化されます。あるグループ内で同調圧力の強い場合、そのグループの規範や価値観に固執することが奨励されます。これにより、個人が自分の意見や行動を変えることが難しくなります。 - 自己同一性
自己同一性に強く関連する信念や行動に固執する傾向があります。これらの信念や行動を変えることは、自己の一貫性や安定感に対する脅威と感じられるため、固執が強化されます。 - 認知行動療法
認知行動療法は、固執した思考や行動を変容するための有効な治療です。この治療は、非適応的な固執を引き起こす思考パターンを特定し、より柔軟で適応的な思考と行動に置き換えることを目指します。
固執の心理学は、固執がどのようにして形成・維持されるのか、どのように管理・改善できるのかを理解することができます。そして、個人が柔軟性を持ち、適応的に行動できるようにするための重要な洞察を得られます。