「記憶」を分類しますと「長期記憶」と「短期記憶」とになります。長期記憶は「顕在記憶」と「潜在記憶」とがあります。潜在記憶は「エピソード記憶」が代表的です。いわゆる思い出や記憶に相当します。潜在記憶は「意味記憶」「手続記憶」「条件づけ」などが相当します。潜在という名称の通り「無意識」に覚えている知識・情報、言動、条件反射などです。さらにエピソード記憶と意味記憶は言語により説明可能な「陳述記憶」に収斂します。手続記憶と条件付けは言語では説明不能な「非陳述記憶」に収斂します。身体記憶もこれに含まれます。
短期記憶には「作業記憶」があります。作業記憶は名称の通り作業を行う際、一時的に記憶を保持するために用いられます。下記のように「知覚」「認知」「意思決定」を行うための記憶です。具体的には会話、議論、暗算、数理計算、熟慮検討などです。
「内省」や「洞察」を目標とした心理療法では「作業記憶」が重要です。上記の通り「認知」と言われる心理機序は作業記憶を要するからです。「認知療法」や「認知再構成」と呼ばれる心理療法は、長期記憶を検索し、これまでの「認知」物事のとらえ方(自動思考やスキーマ)を想起、修正することにより、健全な考え方や生き方を身につける方法です。硬直した認知は柔軟な認知へ、被害的な認知は自責的な認知へ転換するすることにより、自分とも他人とも上手に付き合えるようになります。
精神状態が著しく混乱していると、作業記憶も機能しません。注意・集中・記憶といった「認知機能」も低下しているからです。このため、内省や洞察を目標とした心理療法は「軽症」まで病状回復してから行うべきでしょう。目安は睡眠や食事を十分に摂れ、規則正しい生活を送られるようになる程度です。
「寛解」という服薬しつつも、不眠・不安・うつなどの症状が認められなくなる水準とも言えるでしょう。急ぐ方はこの時点で、復職や復学をしてしまいますが、再燃・再発を防ぐためには、焦りが禁物です。気持ちに余裕を覚えた時こそ、発症前後を思い出し、何が誘因だったか、周囲や環境だけでなく、自分の認知や行動まで振り返ることが必要です。そして、他人も自分も責めることのない、優しい生き方を身につけられると良いですね。