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精神医学

他力本願 と Higher Power

「他力本願」は、日常会話で用いられると、自分の力ではなく他者の力に依存する、「甘え」「怠け」を意味することが多いです。しかし本来、仏教の用語で、浄土真宗・親鸞の教えです。「自力(自身や努力)」ではなく、「他力(阿弥陀仏の力)」へゆだね、仏に救われるという信仰の姿勢を指します。


「他力本願」から宗教色を排除し、その原理を援用した心理療法が「内観」です。1週間6泊7日、内観研修所に泊り込みます。「内観三項目」「お世話いただいたこと」「お返したできたこと」「ご迷惑おかけしたこと」を母父、兄弟姉妹、恩師などに対する自分を順々を調べ尽くします。 朝5時から夜9時までトイレやフロの時間も「1分1秒、惜しんで内観」。その間、面接者が1‐2時間おき8-10回/日、約5分の面接を繰り返し。人生の不安苦悩などから逃げず、目をそらさず、沈静し、「生の実相」を覚知します。それにより、自分の外部にある富や名誉・社会的地位、そして死に対し、「無関心」の態度を堅持することで、「自由」と「心の平静」を得ることができます。さらに「悟り」(宿善開発、転迷開悟、一念に遭う)に至り「いかなる境遇にあっても感謝報恩の気持ちで幸せに日暮らしできる」ようになるのです。


「内観」の治療構造は、研修所に泊り込み、「内観三項目」に沿い、自分を調べ尽くす「作業(さごう)」のため、自力も必要ですが、「内観」の治療構造に身をゆだねる「他力」が働いています。「内観」はじめ3日間は「自力」が優位となり、他者を圧倒するような「被害妄想」にとらわれます。いわゆる「3日目の壁」です。4−5日目を過ぎると、次第に「内観」は深まり、「他力」が優位となり、他者に感謝・懺悔を抱く、健康的な「罪業妄想」を生ずるようになります。深まりを増すと「内観」の核心である「嘘と盗み」を調べることができます。ここまで到達すると、心身とも「内観」へ没入し、宗教色を排除したと言っても「仏性」を覚知する境地に至ります。


“Higher Power”は、自分を超えた力を認識する概念です。“Alcoholic Anonymous(AA)”;アルコール依存症者の匿名による自助グループ、における“12 Step Programme”で用いられます。自分の力ではアルコールはじめ各種依存症を克服することは不可能であるため、“Higher Power”へ助けを求めることが、回復のはじまりとされています。AAはアメリカで生じた自助グループであるため、キリスト教の影響を受けています。しかし“Higher Power”は唯一の神や仏を示すことなく、大自然、宇宙、真善美、本人の潜在力などを包含します。


「他力本願」や“Higher Power”が「依存症」はじめ難治性の「神経症」や「境界例」に効果が認められているのはどうしてでしょう。筆者の考えでは、東洋思想の「我執」、西洋思想の「自己愛」がこれら疾患の精神病理の根底にあるからです。依存症/神経症・境界例の「症状」を治そうとしても、再燃を繰り返すのみ、根底の「人格」「生き方」が変わらないと治らないと考えます。それには「我執」「自己愛」の精神病理である強烈な「自力」から解放され、神や仏、Higher Powerなるものに「心身」「人生」「運命」をゆだねる「他力」への転換が不可欠なのです。最後に“AA 12 Step”を内観の見地から書き換えた文章を記します。


AA 12 Step (内観Version)

  1. 私はアルコールはじめ依存している「もの・こと・人々」へ「無力」となっており、思い通り生きていけないことを認めます。
  2. 私は「自分をより大きな力(神仏・自然など)」により「健全な精神」が得られると信じます。
  3. 私の意思や人生を、私なりに理解した「自分をより大きな力へゆだねることを決心しました。
  4. 恐れることなく、私の人生における「棚卸し」を行い、「表」などを作成します。
  5. これまで周囲の方々へ「ご迷惑おかけしてきたこと」をありのままに認めます。
  6. 私の「至らないところ全て」「自分をより大きな力」により、改善することを決心しました。
  7. 私の「至らないところ全て」を改善することを、謙虚に「自分をより大きな力」へ委ねます。
  8. 私が「ご迷惑おかけした」全ての方々の「表」などを作成し、その方々全員へ、おわびしようと思います。
  9. その方々や他の方々を傷つけない限り、機会あるたび、その方々へ直接おわびします。
  10. 私自身の「棚卸し」を続け、間違っている時は速やかにそれを認めます。
  11. 「祈念や黙想」により、私自身の理解している「自分をより大きな力」と積極的に話し合い、「自分をより大きな力」の意思を知り、それを実践します。
  12. 以上のステップを経て、私たちは「霊的」に目覚め、この想いを他の方々へ伝え、今後の人生において、継続してまいります。
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