
リワーク再考
“Return to Work” の略語。気分障害などの精神疾患により休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーションを実施する機関で行われているプログラム。
「寛解」時期、すなわち服薬しつつも抑うつ症状はほぼ消退し、睡眠・食事を摂れ、多少のストレスを生じても動じない時期に開始。最低3カ月間。平均6‐12カ月間。
規則正しい生活、食事の管理、適度な運動、振り返り(家系図・自分史・取説・未来予定表)。
「復職準備性」を満たしているかどうか(別紙)。
主治医<産業医・人事部の判断・許可。

「寛解」とは
「寛解」とは、病状が改善し、「治癒」に近い状態ですが、精神・神経疾患は慢性疾患が大半のため服薬継続する必要があります。このため改善後も服薬継続・経過観察する必要あるため、「寛解」と呼称し、「再燃」に注意していく必要があります。
リワークはじめリハビリテーションは寛解してから行うことが望ましく、まだ症状の残存している時期に行うと病状が「再燃」する可能性あります。
「再燃」とは、「寛解」したものの再び病状が「増悪」うつ状態を呈する時に用います。
「再発」とは、「治癒」した後に用いられます。急性・炎症疾患が対象となります。

「振り返り」の必要性
今回の病気の「原因」「誘因」をできる限り調べ、それを「否認」することなく「認知」し、「再燃予防」のため、必要なことは何か、自分のできることは何か、熟慮する必要があります。
しかし、誰しも自分の弱いところや悪いところから目をそむけたいもので(否認)、なかなか「直視」することができません。
そこで、一人で行うことの難しい作業を、集団で行うことにより、可能となります。これはまさに「集団精神療法」の原理で、同じような問題を持つ患者さんが集まりお互いに問題を聴いたり話したりしながら解決の方法を発見する訳です。
えてして、人は自分の問題は見えないものの、他人の問題はよく見えるものです。「集団」においては「他人の振り見て我がふり見直す」という通り、他者の言動を見聞きすることにより、自分の言動を振り返ることになります。

「振り返り」の内容
銀座泰明クラブのリワークでは「家系図」「自分史」「自分取説説明書」「未来予定表」を作成することを振り返りの内容と指定しております。これはすなわち精神医学が定義する「家族歴」「生活歴」「現病歴」「治療方針」「予後予測」に相当します。精神科医は初診にて無理ない程度にこれらを聴取し、検査や治療を考察、予後予測いたします。
これまでの医療は医師中心で、知識や情報の偏在が圧倒的でした。しかし、1990年後半よりInternetの発達に伴い情報格差は縮小し、“ Informed Consent”が求められるようになりました。そして治療も医療者主導ではなく、患者主導へと移行しています。
リワークのような長期的な治療こそ患者さんの主体性・積極性なくして成り立ちません。よく用いられる例えですが、治療者は伴走者であり、走るのは患者さんです。この点を改めて理解し、取り組んでいただけることを期待いたします。

復職の基準
「復職準備性」を評価する「標準化リワークプログラム評価シート」が一つの基準となります。各心理検査、例えばCES-D, SASS なども参考になります。最も参考になるのは本人の自信もさることながら、周囲の方々の評価でしょう。第三者・複数の評価を公平・平等にまとめることが重要です。
注意すべきは抑うつ状態の回復期に「軽躁状態」になることです。「躁うつ病」と診断する程ではないものの、上機嫌となり、これまでの抑うつ状態は何だったのかという程、明朗快活になることがあります。軽躁状態は、復職を急いだり、再燃の危険を否認したりすることを招きがちです。
最後に、復職できるかどうか、最終判断は職場が決定します。主治医が「復職可能」と診断書を書いても、職場側が認めないことが多々生じるようになりました。
特に大企業・外資系企業は、ベテランの精神科医を産業医または顧問医として雇用し、“Second Judge”を行います。復職希望者が就労に耐えうるのか、再燃の可能性はないのか、シビアな話、報酬の対価に相当する労働をできるのか、“Cost / Benefit ” を計算する訳です。
「企業」は「営利」を目的とする組織ですから止むを得ません。その点を念頭に置き、厳粛な気持でリワークへ臨みましょう。