リチウムは、双極性障害(躁うつ病)や他の気分障害に対して使われる主要な気分安定薬です。その作用機序は以下の通りです。
- 神経伝達物質の調整
リチウムは、脳内の神経伝達物質のバランスを整える役割を果たします。双極性障害では、これらの神経伝達物質の不均衡が、躁状態やうつ状態に関与しているとされており、リチウムがこれを調整することで、過剰な興奮状態(躁状態)や過度な落ち込み(うつ状態)を防ぐ効果が期待されます。 - シグナル伝達系の調整
リチウムは、脳細胞の内部シグナル伝達経路にも影響を与えます。特にイノシトールリン脂質経路やGSK-3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ)といった分子レベルでのシグナル伝達経路を調節することで、神経細胞の機能を正常化させ、気分の安定化に寄与しています。 - 神経保護作用
リチウムは、神経細胞を保護し、神経新生(脳の一部で新しい神経細胞を作り出す過程)を促進するとされています。双極性障害では、ストレスや神経損傷によって神経細胞がダメージを受けやすくなりますが、リチウムはこの損傷を抑え、脳全体の健康を維持する作用があると考えられています。 - 酸化ストレスの抑制
リチウムは、酸化ストレス(細胞や組織にダメージを与える不安定な酸素分子)を減少させる効果があります。酸化ストレスは、双極性障害を含む様々な精神疾患の進行に関与している可能性があるため、リチウムのこの作用は気分安定化に寄与する一因とされています。
リチウムは天然のミネラルであり、水道水にも含まれています。水道水のリチウムの濃度の高い地域は自殺率が低いことが実証されています。さらに上記のように神経保護作用があることから、認知症や衝動性など様々な精神・神経疾患の予防に寄与することが報告されています。