「パニック障害」とは、予期せぬ「パニック発作」が繰り返し生じ、生活に支障を来たします。「パニック発作」とは、満員電車やエレベーターなど閉鎖空間にいる時に生じやすく、動悸・ 呼吸困難・めまい・ふらつき・吐気など身体症状、「死んでしまうのではないか」という程の強い不安・恐怖症状を伴います。
そして「また起きるのではないか」という「予期不安」を覚え、パニック発作を生じた場所や外出さえもできなくなることもあります。これを「広場恐怖」といいます。
原因として、気分障害などの遺伝素因、幼少期の心理的・外傷体験、神経伝達物質:ノルアドレナリンの過剰・セロトニンの不足、カフェインによる誘発などが考えられています。
原因としては心理的な葛藤も誘因となりますが、最近は脳内の神経伝達物質の異常が指摘されています。特に大脳辺縁系・基底核といった部位のセロトニンやノルアドレナリンの伝達異常や神経回路の悪循環が示唆されています。これらの異常が全身の神経系や内分泌系に波及し、上記のようなパニック発作を引き起こすのです。
ストレスが生じると、感覚として視床で知覚され、扁桃体へ入力されます。扁桃体はストレスに対する「番犬」とも言われ、視床に入力された感覚を制御をしていています。ストレスが不安や恐怖と判断されると、視床下部を経て全身の内分泌・代謝系が作動したり、他の大脳基底核を経て、動悸や過呼吸が起きます。これがパニック発作のメカニズムです。
一方で、感覚情報は記憶を司る海馬、思考を司る前頭葉をも経由し、扁桃体へ入力されます。過去の深いな記憶からフラッシュバックを生じることもあれば、感覚に対して認知による制御を行い、不安や恐怖を和らげることも可能です。このメカニズムを応用するのが、後述する認知行動療法に相当します。
治療はたいてい数ヶ月かかります。まずはパニック発作を抑えるための薬物治療を行います。SSRIといった抗うつ薬やベンゾジアゼピン系の抗不安薬が上述の大脳辺縁系や基底核に作用し、不安や恐怖を軽減します。パニック発作が消失した後は残存する予期不安や広場恐怖に対して精神療法を行います。
パニック発作は誘因の有無に関わらず、突然生じ、10分程でピークとなり、60分程で治まります。しかし、不安・焦燥・恐怖に加え、動悸・呼吸困難・手足の痺れ、意識朦朧など、 「死んでしまうのではないか」という程の苦痛を伴うため、 「脳神経の異常興奮」による疾患と思えず、救急搬送されることも少なくありません。
それでも二度目・三度目となると「予期不安」という「また起きるのではないか」という不安にとらわれるため、再発予防を行うことが有用です。
•そこで予防薬を服用するのも重要ですが、薬に頼るばかりでなく、 下記のような「認知行動療法」も試してみましょう!
1.深呼吸・腹式呼吸を繰り返す
2.その場から離れ(特に人混み)歩き回る
3.脈拍を数えつつ、自分が不安状態にあることを自覚する
4.落ち着いてきたら、何か「誘因」はなかったか振り返る
5.認知療法や森田療法などの理論を思い出し自分の疾患を客観視する
売れない作家・孝夫(寺尾聰)と有能な医者・美智子(樋口可南子)の夫婦は、美智子がパニック障害にかかったことを機に東京を離れ、孝夫の故郷・信州の山村に移り住むことに。がんに冒された恩師(田村高廣)や、難病でしゃべれない娘・小百合(小西真奈美)、そして阿弥陀堂で暮らす96歳の老婆おうめ(北林谷栄)など、村の人々との温かい交流の中、夫婦は生きる喜びを取り戻していく…。
デビュー作『雨あがる』で世界的にも絶賛された小泉堯史監督による第2作。奥信濃の四季を追うその映像は、この世とは思えないほど荘厳な美しさをたたえており、その中でささやかに生き死にしていく人々の静かで凛とした姿は、現代がなくしてしまった大切なものを思い起こしてくれる。虚飾を捨て、自然と共存することがいかに心地よいものであるかを、シンプルかつファンタジーのように濃厚な世界観で伝えてくれる、摩訶不思議な味わいに満ちた秀作である。(的田也寸志)