ICDー11におけるギャンブル症の診断基準(一部改変)
ギャンブル症の特徴的な行動は持続的・反復的なギャンブル、オンライン・オフラインは問いません。
1. ギャンブルに対する自制の減弱(例;開始、頻度、強度、継続、終了など)。
2. 日常生活を差し置いてても、ギャンブルの優先順位が高くなります。
3. 様々な支障を生じていても、ギャンブルを続ける、没頭する、個人・家族・職業・教育・社会など、重要な側面に不都合な結果をもたらしています。
ギャンブルは一時的なこともあれば、継続的・反復的なこともある、診断するには少なくとも12か月以上の特徴を認める、重症時は期間短縮することもあります。
ギャンブル依存症の特徴(厚労省・令和3年度・一部改変)
はじめパチンコ・パチスロ8割、次第に競馬・競輪・競艇など2割へ
開始年齢;男性19歳、女性20歳
不安・焦燥・うつ、希死念慮・自殺企図を伴うことも少なくない
喫煙率は高いけれど、飲酒率は高くない
ADHD併存6.5%
小児期・逆境体験31.4%
大学中退者30% ↔ 一般3%
触法行為者15%、窃盗・横領80%
無職・生活保護28%/ギャンブル開始時1%未満
ギャンブル依存症の危険因子
若年男性
成績・学歴;低い
職業;無職、福祉;受給
住所;都市、賭博場が近い
認知の歪み;「勝てる」という思い込み
条件づけ;「たまに」勝つこと
性格;衝動性・刺激性・新奇探求性
ギャンブル依存症の認知の歪み
縁起をかつぐ
お守りを持っていると勝てる
ある行動・儀式、特定の場所・機械にこだわる
根拠ない考え
負け続けていることは、勝ちが近いということ(ギャンブラーの錯誤)
負けを取り返す唯一の方法はギャンブルで勝つこと
記憶の塗り替え
勝ったことのみ思い返し、負けたことは忘れる
主観の客観化
内的感覚(心身の調子)、外的間隔(天候、出来事など)をギャンブルに結び付ける
誇大妄想
特定の場所・方法により勝てると信じている
ギャンブル問題・重症度・評価
1. どのくらいの頻度で、失っても本当に大丈夫な金額以上のお金を賭けましたか?
2. どのくらいの頻度で、同じだけの興奮を得るため、それまでより多くの金額を賭けましたか?
2. どのくらいの頻度で、負けた金額を取り返そうと、別の日に戻りましたか?
4. どのくらいの頻度で、お金を得るために借金をしたり物を売ったりしたりしましたか?
5. どのくらいの頻度で、自分が問題を抱えているかもしれないと感じましたか?
6. どのくらいの頻度で、あたながそうだと思うかにかかわらず、周囲の人々があたなのギャンブルを批判したり、あなたが問題を抱えていると言ってきたりしましたか?
7. どのくらいの頻度で、自分のやり方や結果として起こることに関し、悪い申し訳ないと感じましたか?
8. どのくらいの頻度で、健康問題を引き起こしましたか?これにはストレスや不安なども含みます。
9. どのくらいの頻度で、家庭の金銭問題を生じましたか?
全くない0点 時々1点 たいてい2点 いつも3点
【1~2】低リスク 【3~7】中リスク 【8~】ギャンブル問題
ギャンブル依存症の「行動経済学」
「ホモエコノミクス・合理的経済人」という観点から人間理解を試みます。
ホモエコノミクスは経済の情報と自分の予算を、正確に把握・考慮し、自分の効用(満足度)が最大となるよう購入します、これらの判断を適切・迅速に決定、自己利益を追求するためだけに行動します。
しかし、実際の人間は、しばしば非合理的で、損得を度外視した行動を選択し、自分より他者を尊び、自分を捨て利他的な行動を選択することもあります。
これを「限定合理性」といい、人間が合理的選択のために用いる知識は断片的である、人間は合理的選択を行う際、不完全な予測に頼らざるを得なくなる、人間が合理的選択のため用意できる選択肢は実際に行動可能な選択肢のなかの2、3個のみであるそうです。
「速い思考」:自動的に高速で働き、努力は不要か必要であってもわずか、本来の質問を優しい問題に置き換える、反復が多いと良いと認識しる=よく出会うものは安全と考える、因果関係を発見する(直接の因果関係がないものを結びつける、動物的・無意識な思考。
「遅い思考」:複雑な計算など頭を使う困難な知的活動に注意を割り当てる、人間的・意識的な思考。
「ヒューリスティック」とは、何らかの意思決定をするときに、完璧な分析はせず、簡略化した思考で判断する手法のこと。
「期待効用仮説」とは、選択肢の期待効用(効用×成功確率)を計算し、期待効用が最大となる選択肢を選ぶ意思決定の方法です。 「効用」とは物事に対する個人的な「望ましさ(価値)」です。
Q;次のAとBのいずれかを選択できるものとします、どちらを選択しますか?
A:確実に10000円もらえる
B:10%の確率で25000円、89%の確率で10000円、1%の確率で何ももらえない
期待値=A(1000)<B(1140)
A:期待効用=100%×100=100
B:期待効用=10%×108+89%×100+11%×0=99.8
期待効用= A(100)>B(99.8)→ Aを選択するものです。
合理的経済人は、資産の増加、リスクの「回避」を知っています。
しかし、ギャンブル依存症は、Bを選択するのです・・・
参照点
評価は中立的な参照点に対して行われます。期待する結果が参照点ともなります。
感応度・逓減性
金額の心理的な価値は金額が大きくなるほど逓減します。これは純粋な金額だけでなく変化に対しても当てはまります。
損失回避性
損失と利得を直接比較した場合でも、確率で重みをつけた場合でも、損失は利得より重く感じられます。実験結果、利得1に対して、損失は1.5~2.5倍重く感じられます💦
ギャンブル依存症は、損失を重く感じ、取り返すため、賭け続けるのです・・・
決定加重
意思決定において人々が割り当てる重みづけです。確率に近いですが、実際ほとんど起こりそうもない重みをつける「可能性の効果」と確実な結果に対し、確率に見合う重みをつけない「確実性の効果」が反映されています。
決定加重は非線形(原点を通る直線ではない)であり、客観的確率が0または100%に近いところでは、「可能性の効果」と「確実性の効果」が大きく現れ、主観的確率と客観的確率の差が大きいです。客観的確率が約40%までは、過大評価し、それ以上では過小評価します。
ギャンブル依存症も、客観的確率が低い際に過大評価してしまいます・・・
ギャンブル依存症の治療
診断;家族歴・生活歴・現病歴など
問題解決療法
具体的な問題を列挙し、発散思考・収束思考に基づき、効果的な問題解決を図る
認知再構成法
認知の歪み(前記)を特定し、「コラム法」を用い、矯正する
自己覚知・洞察
常に、自分の気分や認知に気づき、考えを深めること、言葉・文字にするとなお良い
依存症治療の4本柱
Harm Reduction
危害低減、本人および周囲の人々が嗜癖行動の危害から速やかに回避されるよう努力すること
Medication
薬物療法、行動嗜癖においても、有用な薬物があれば積極的に用いる
Psycho-Socio Therapy
認知行動療法、ストレスコーピング、治療共同体
感情調整・衝動制御・行動抑制/認知・思考訓練
Self Help Group
当事者による能動的な治療に優るものなし
問題解決への個人の責任×依存への個人の責任
モラル・モデル、刑事司法モデル
認知行動モデル
スピリチュアルモデル
医療疾病モデル