「アイデンティティ」とは
「アイデンティティ」という言葉は、今や様々な場面で使われています。心理学領域における「アイデンティティ」について考えたのは、アメリカの精神分析家 Erik Erikson(1902-1994)です。ドイツ出身のEriksonは、実父の身元が不明なまま育ちます。「自分の実父は誰なのか?」「そもそも自分とは何者なのか?」という自らの人生の問いを学問領域まで求めたことが現在まで大きな影響を及ぼしています。
「アイデンティティ」にまつわる概念
「アイデンティティ Identity」
「自分とは〇〇である」という感覚のこと。日本語では「自我同一性」と言います。
「自分はひとつにまとまりのある存在、唯一無二の存在」=不変性
「過去の自分、今の自分、未来の自分は時々変化しながらも、連続している」=連続性
「不変性+連続性を持って社会の中で存在している」という自信がアイデンティティの感覚です。
過去の体験の整理・社会の中での役割を見つける・これから先の目標を持つなどが役立ちます。
例「周囲から認められている」「受け入れられている」「以前できなかったことができる」など
「アイデンティティ・クライシス Identity Crisis」
自分が思う自分像が揺らぐこと。挫折体験、トラウマ体験、環境の変化などにより生じる。
「モラトリアム Moratorium」
もとは金融用語で返済猶予期間を指す言葉、FreudやEriksonが転用して、心理学領域ではアイデンティティの形成途上にある状態を指す。
「ライフサイクル論」
「自分とは何者だ」と、簡単に言えないのが実際のところではないでしょうか。今を切り取って「自分は〇〇という者です」とは言えるかもしれませんが、これから先の自分まではわかりません。Eriksonは同様の考えのもと、人は生涯発達し続けるのかもしれないという考えに至ります。それを段階的にまとめたものが「ライフサイクル論」です。
乳児期 – 1歳半 基本的信頼感:家族関係を通じて対人関係の基盤を得る
幼児期前期 -3歳 自立性:身辺自立のスキルを身に着ける
幼児期後期 -5歳 積極性:心身を統制し、目的に向かう積極性を発揮する
学童期 – 12歳 勤勉性:社会生活(学校)に適応する力を身に着ける
青年期 – 18歳 同一性:自分とは何者かを考え始める
成人期 – 40歳 親密性:他者との関わりの中で成熟する
壮年期 – 65歳 世代性:家族・社会の中で次世代を育成する
老年期 65歳 – 自己統合:人生を包括的に振り返り受け入れる準備
資料;氏原寛,亀口憲治,成田善弘,東山紘久,山中康裕共編(2004)心理臨床大事典.培風館.