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精神医学

うつ病の脳科学

うつ病の脳科学

うつ病(Major Depressive Disorder, MDD)は、気分の持続的な低下、意欲の減退、思考や身体機能の異常を特徴とする精神疾患です。脳科学の観点では、神経伝達物質の不均衡、脳領域の機能異常、ストレス応答の過剰活性などが関与しています。


1. うつ病に関与する脳の領域

① 前頭前野(Prefrontal Cortex)

  • 役割: 感情制御、意思決定、注意、認知機能を担う。
  • うつ病との関連:
    • 特に背外側前頭前野(DLPFC)の活動低下が見られ、意欲や集中力の低下に関与。
    • 内側前頭前野(mPFC)の過剰な活動が、自己批判や過度な反すう(ネガティブ思考の繰り返し)と関連。

② 扁桃体(Amygdala)

  • 役割: 恐怖や不安などの情動を処理。
  • うつ病との関連:
    • うつ病患者では、扁桃体が過剰に活動し、ネガティブな情報に対して過敏になる。
    • ストレスや不安を強く感じやすくなる。

③ 海馬(Hippocampus)

  • 役割: 記憶の形成やストレス応答の調整。
  • うつ病との関連:
    • うつ病患者では海馬の萎縮が見られ、記憶障害や学習能力の低下が起こる。
    • 慢性的なストレスによるコルチゾール(ストレスホルモン)の影響で神経細胞がダメージを受ける。

④ 側坐核(Nucleus Accumbens)

  • 役割: 報酬系の中枢であり、快感やモチベーションを調整。
  • うつ病との関連:
    • 側坐核のドーパミン活性が低下し、快楽を感じにくくなる(アンヘドニア)
    • 「好きだったことが楽しめない」「何をしても満足感がない」といった症状が現れる。

⑤ 視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)

  • 役割: ストレス応答を調節するシステム。
  • うつ病との関連:
    • うつ病患者ではHPA軸が過剰に活性化し、コルチゾールが慢性的に高い状態が続く。
    • コルチゾールの過剰分泌は、海馬の神経細胞を傷つけ、記憶力低下やストレス耐性の低下を引き起こす。

2. 神経伝達物質の関与

① セロトニン(Serotonin)

  • 役割: 気分の安定やストレス耐性を高める。
  • うつ病との関連:
    • セロトニン不足が、気分の低下や不安感の増大に関与。
    • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、シナプス間のセロトニン濃度を高め、気分を安定させる。

② ドーパミン(Dopamine)

  • 役割: 快楽やモチベーション、報酬系を調整。
  • うつ病との関連:
    • 側坐核のドーパミン不足が、「何をしても楽しくない」と感じる原因となる。
    • ドーパミン作動薬(ブプロピオンなど)が、うつ症状の改善に役立つ場合がある。

③ ノルアドレナリン(Norepinephrine)

  • 役割: 注意力、覚醒レベル、ストレス応答を調整。
  • うつ病との関連:
    • ノルアドレナリン不足により、集中力やエネルギーの低下が起こる。
    • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、ノルアドレナリンの量を増やし、意欲を回復させる。

④ グルタミン酸(Glutamate)

  • 役割: 学習や記憶、神経可塑性に関与。
  • うつ病との関連:
    • グルタミン酸の異常が、認知機能の低下や意欲の減退に関与している可能性がある。
    • ケタミン(NMDA受容体拮抗薬)は、即効性のある抗うつ効果があり、近年の治療法として注目されている。

3. うつ病の脳科学的治療アプローチ

① 薬物療法

  • SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬): セロトニン濃度を高め、不安・抑うつを軽減。
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): ノルアドレナリンも増加させ、意欲を向上。
  • NDRI(ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬): ドーパミンを増加させ、快楽の回復を促す。
  • NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬): 睡眠の質を向上させる作用。

② 認知行動療法(CBT)

  • ネガティブな思考パターンを修正し、前頭前野の活動を回復させる。
  • 自己批判的な思考を現実的に捉え直すことで、うつ症状の軽減が期待される。

③ 経頭蓋磁気刺激法(TMS)

  • 非侵襲的に前頭前野を刺激し、うつ症状を改善する。
  • 特にDLPFCの低下した活動を回復させる効果がある。

④ 運動療法

  • 有酸素運動が、ドーパミンやセロトニンの分泌を促進し、海馬の神経新生を促す。
  • 週3回以上の運動が、軽度〜中等度のうつ病に有効。

⑤ マインドフルネス療法

  • 扁桃体の過剰な活動を抑え、前頭前野の機能を改善。
  • ストレス耐性を高め、うつの再発を予防。

⑥ 睡眠の改善

  • 睡眠不足は、HPA軸の過剰な活性化を引き起こし、うつ症状を悪化させる。
  • 適切な睡眠リズムの確立が、回復には不可欠。

4. うつ病の脳科学的予防

  1. ストレス管理: HPA軸の過剰な活性化を防ぐ。
  2. 社会的交流の維持: 孤立を防ぎ、扁桃体の過剰活動を抑える。
  3. 食生活の改善: オメガ3脂肪酸やトリプトファンがセロトニンの生成を助ける。
  4. 適度な運動: 神経可塑性を促進し、脳の健康を保つ。

まとめ

うつ病は、前頭前野の機能低下、扁桃体の過活動、海馬の萎縮、報酬系の低下、HPA軸の過剰反応が関連している神経学的疾患です。神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の異常も深く関与しています。

治療は、薬物療法、認知行動療法(CBT)、TMS、運動療法などの組み合わせが効果的です。うつ病の脳科学的理解が進むことで、より個別化された治療法の開発が期待されています。

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