うつ病の治療といいますと、定石は服薬+休養となっています。しかし休養といっても漠然としていて、不安を覚えることでしょう。健康ならば、休んだり遊んだりすることを「普通に」できるのですが、うつ病になるとなかなか「自然に」できないところが病気の症状でもあります。回復するためには「休養」が欠かせませんから、具体的に休養の方法をご説明しましょう。
・朝は早起きする
・食事は規則正しく摂る
・昼寝は15~30分以内
・自分の部屋でゆっくり過ごす
・特に何もしない
・簡単な日記をつける
・夜は早く寝る
・ご家族は温かく見守る
・朝は早起きする
理想的には、日の出の時間です。人間の身体は太陽の光で一日のリズムが作られます(サーカディアン・リズム)。特に朝日を浴びることで頭も体も目が覚めます。しかし、うつ病になると起床困難を生じるものですから、早起きを「努力目標」としましょう。また寝てしまうしても、一旦、朝早く、目を覚まし朝日を浴びることが重要です。
・食事は規則正しく摂る
朝食はしっかり摂るに越したことありませんが、どうしても食べられない時は、甘口のコーヒー牛乳などがお勧めです。糖分で血糖が上昇し、ミルクが胃壁を守り、少量のカフェインが目を覚ましてくれます。ヨーグルトドリンクなども用意し、それと朝食後のお薬を飲むと良いでしょう。
昼食・夕食も12時、18時頃に規則正しく摂りましょう。食欲がなくても、一定の時間にある程度の量を食べることが大事です。食べられず、体重が落ちることで益々、心身が弱ってしまう方が少なくありません。
・昼寝は15~30分以内
昼寝、午睡は自然現象であり、有用です。しかし時間は30分以内に止めましょう。それ以上、眠ると睡眠が深くなり、2-3時間は眠ってしまいます。そして夜に眠れなくなり、夜更かしして、結果、翌朝、起きられなくなるという悪循環に陥ります。
・自分の部屋でゆっくり過ごす
誰でも自分の部屋が一番、落ち着く場所でしょう。家族に合わせて無理に居間で過ごすことはありません。ましてや、友人や同僚・上司との面会は避けましょう。うつ病になると人に会って話すことが億劫になります。親しい友人や家族でさえもです。このような時は自分の部屋でゆっくり過ごすことがお勧めです。
・特に何もしない
うつ病の療養は特に何もすることはありません。回復期ならば良いですが、うつ病の極期は何かすると、疲れてしまうだけなのです。例えば、本を読んだり、テレビを見たり、と視覚を使う行為はかなり脳・神経が疲れてしまいますので避けましょう。外出や運動も具合が悪い時は体力を消耗するばかりとなります。
従って、療養当初はとにかくのんびりと、雲の流れを眺めたり、鳥のさえずりを聞いたりする程度が良いでしょう。最近、流行のヒーリングミュージックを流したり、アロマを漂わせたりするのは悪くありませんが、要は、本人が心地良く感じるかどうかです。
尚、「転地療養」は両刃となる可能性があるので、注意が必要です。よく行き慣れた別荘などへ行き、気が休まったという方もいれば、見ず知らずの観光地などへ連れて行かれ、むしろ気疲れしてしまった方もいます。具合が悪い時には遠方に車や電車で異動するだけでも疲れてしまうものです。
更に、親元を離れ、一人暮しをしている青年には、実家に帰り休める方と、親には言いたくないから、心配かけたくないからと、内緒で休んでいる方とがいます。この場合は、その方ごとに背景や事情を考慮しながら検討を致します。
・簡単な日記をつける
一日の終わりに簡単な日記を付けましょう。その日したこと、あったことなど、メモをする程度で結構です。ともすると単調に過ぎてしまう毎日を見直すことができますし、規則正しい生活を送るための動機・計画につながります。
更に一日を午前・午後・夜間などに区切り、◎○△×などの評価をすることも一案です。1週間ごとに振り返りなどをすると、以前よりも○が増えた、×が減ったと気づかれるはずです。なかなか気づかないでしょうが、日々、少しずつ良くなっている変化を確かめ、安心材料にしましょう。添付の「生活行動記録表」が参考になるでしょう。
・夜は早く寝る
朝早く起きるためにも、夜は早く寝ましょう。どの病院でも病棟では21~22時に消灯します。夜更かしは昼夜逆転のはじまりですから、とにかく早く寝ましょう。眠れない時には睡眠薬を飲みましょう。現在、流通しているベンゾジアゼピン系の睡眠薬は安全性が高いですから、安心して服用して下さい。
と言って、全てを薬で解決しようとも思わないで、まずは規則正しい生活や静かな室内環境を保てるよう心がけることを優先しましょう。コーヒーや紅茶などのカフェインを夕方以降に飲まないようにして下さい。更にテレビや音楽などで刺激的な内容の放送は避けましょう。
・ご家族は温かく見守る
ご家族の方々へはご本人を温かく見守っていただけるようお願い致します。ともすると何かしてあげなければならないと、過保護・過干渉になり、結果的に逆効果になってしまいます。話しかけ・声かけも、ご本人の様子・反応を見ながらにしましょう。本人が話したそう、寂しそうにしていればそれに応じてあげる程度です。
最後に繰り返しますが、うつ病の療養は焦らずゆっくりと休むことが大事です。何かしたから良くなるものではありません。薬を飲み、よく休んで、自然治癒力を十分に賦活させられるよう、心穏やかに過ごすことが一番です。ご家族の方々にはそのための環境整備をしていただきながら、温かく見守っていただけると幸いです。