「精神科」の診療は内科や外科など「身体科」とは異なる「決まり」「ルール」があります。これを「治療」の「構造」や「枠」と呼びます。例えば、精神科の診療において「時間・場所・金額」などを決め、守らなければなりません。さらに、原則として患者さんの「身体に触れることはありません」(血圧測定や血液採取など身体測定などの例外を除き)。
これにより、患者さんは「非日常」の「治療空間」において「日常」の「生活」「社会」では語ることのできなかった「過去」や「秘密」を語ることができる訳です。時には本人がこれまで数十年間も抑圧してきた「無意識」の「記憶」が想起されることもあります。
そのため、「治療者」は「治療空間」を守るため、できる限り「自己開示」を「制限」すべきであり、診察室以外において、患者さんさんと「接触すべきではない」とされています。これら診療の「構造」や「枠」は、格闘技「リング」の「ロープ」のような存在と例えると分かりやすいでしょうか…ロープはリングの周りを囲んでいますが、柔らかく跳ね返るようになっていますね、多少の隙間もありますが…
「治療者」が「中立」にあろうと心がけると、患者さんには「よそよそしく」感じられてしまうかもしれません。若い医師や他科より転科してきた医師などが慣れず、このように振る舞うかもしれません。「迷った時は『自然体』にて」が良いでしょう。
しかし「境界侵犯」(個人的関係)は禁じなくてはなりません。治療者は「特権」を利用し、患者さんを「搾取」することになります。患者さんもはじめ「特別扱い」されることに喜びを覚えるかもしれません。しかし、それは長く続くものではなく、いつしか治療の目的を見失うことになります。
精神科の治療目標は「刹那の快楽」ではなく「人格の向上」です。それには自分の「過去」や「欠点」を「直視」する「覚悟」が必要です。「治療者」は患者さんへ寄り添い「援助」します。目標達成には、治療者と患者さんとの「治療同盟」に基づく、根気強い「協働作業」を必要とします。