「性犯罪」は「魂の殺人」と呼ばれるほど被害女性の心を痛めつけます。女性は自分の体が汚れてしまったと感じ、深い抑うつ状態に陥り、自殺企図に及ぶことさえもあります。にもかかわらず加害男性は悪びれることなく、犯罪を繰り返します。いや、悪いとは薄々分かっているけれど、止めることができず、繰り返してしまいます。この心理は「依存症」と言われるものです。
「性依存」の方は深いところで女性の心理を理解できず、女性を性の対象としか認識していません。社会生活や日常生活は普通に送っていても、いざ「性のスイッチ」が入ると別人格が現れ、見知らぬ女性の下着を盗んだり、写真を撮影したり、車内で痴漢をしたり、さらに暗闇で強姦したりするのです。その間、性依存症者は相手の気持ちや苦痛を考えず、ただただ快感を味わっています。
相手は性の対象「もの」であり「ひと」ではありません。すなわち「愛」のない行為なのです。そもそも「性」とは男女の「愛」を深めるための手段であるはずの行為ですが、性依存症者には「性」のみが目的となってしまい空回りしている、空しい行為と言えるでしょう。性依存症者のほとんどが独身者か、既婚者であってもセックスレスの仮面夫婦であることがほとんどのようです。
それでは、性依存症への「治療」はどうすればよいでしょう。実はまだ未開拓の分野であり、「ガイドライン」などありませんので、当院での治療をご紹介しましょう。まず自分自身が「性依存」であるという自覚を有していただくことが第一です。依存症というのはどうしても「否認」が生じ、なかなか自分の問題と向き合えないものです。そこで自分の犯してきた「依存の歴史」を「自分史」にワードによりまとめていただきます。エクセルにより「年表」にしていただいてもよいでしょう。すると「依存の」背景に隠されてた幼少期や思春期の「心的外傷」が想起されます。これらが依存症の「一因」になっていたと気づかされるものです。
この生い立ちをもとに、できれば「内観療法・集中内観」を行っていだきたいです。内観三項目「お世話いただいたこと、お返しできたこと、ご迷惑おかけしたこと」を、母・父、兄弟姉妹、恩師、友人などあらゆる人たちに関して、幼少期から現在まで、徹底的に調べるのです。すると、どれだけ自分が皆から愛されながら、罪深いことをしてきたのか、「自責の念」にかられます。そして被害者をはじめご迷惑をかけた人々へ「懺悔の気持ち」にかられるようになるのです。集中内観を終えたは「日常内観」を行い、「贖罪」に努められるかは、その方の「内省の深さ」によるでしょう。
最後に医療機関として、性欲を医学的に抑制することも行います。抗精神病薬である「ドーパミン遮断薬」を用いることにより、性欲は確実に治まります。問題は本人が服用に同意すること、適応外試用であることです。これらを本人と十分に相談して用いることにより、性犯罪の再犯をなんとか防いでいる方もいらっしゃいます。「性依存症」は「性犯罪」と密接不可分とも言える深刻な「脳と心の病」です。あらゆる手段を用いて防がなければなりません。