「スキーマ療法」とは、「慢性うつ病」、およびその背景に想定されうる「境界性パーソナリティ症」に対する心理療法で、通常の認知行動療法などでは十分な効果の認められない症例に対して用いられます。治療原理は、認知行動療法、精神分析療法、ゲシュタルト理論、愛着理論など既存の心理療法から理論と技法を取り入れた、統合的・心理療法です。このため、通常の認知行動療法など、他の心理療法では効果が見られない場合でも、スキーマ療法ならば有効な場合があります。その代わり、それ相応の「時間・費用・労力」 “Cost” はかかることでしょう。
そもそも「スキーマ」とは、「認知療法」の治療概念に由来します。認知療法は、物事のとらえ方や現実の受け止め方を「認知」といいます。認知では、何か出来事が起きた時に瞬間的に浮かぶ考え方があり、これが「自動思考」といいます。自動思考は、何らかのきっかけに伴い、自動的に意図せず脳裏に浮かぶ考え方です。この「自動思考」の奥深くにあり、心の中核をある考え方をが「スキーマ」です。スキーマは、その人の過去の経験から形成され、恒常的であり、その人の価値観・人生観であると言えます。「自動思考」は、コツさえつかめば、比較的容易に自覚できますが、「スキーマ」は奥深くにあり、その方の価値観・人生観であるため、「客観的」に自覚することは、非常に難しいと言われています。
「スキーマ療法」の骨子は、「早期不適応的スキーマ」です。これは「中核的な感情欲求」という、子どもが親に抱く「愛して欲しい」「守って欲しい」「大事にして欲しい」といった至極当然な欲求です。しかし「乳幼児・虐待」はもとより、いわゆる「機能不全家族」で育った子どもや、学校でいじめ被害に遭っても、教員・友人・親御さんから適切な援助を受けられなかった子どもは「早期不適応スキーマ」を身に付け、生涯に渡り、自滅的な認知・感情パターンをたどってしまうことがあります・・・
中核的な感情欲求は上図のように5つに分類されます。いずれも、小児・思春期・青年期と成長するにつれ、自然と満たされていくものですが、何らかの理由で「阻害」されると、様々な精神・行動の障害に至ります。
5つの阻害スキーマ領域を18の早期不適応スキーマと関連づけると上図のようになります。特に、境界性パーソナリティ症ではこれらのスキーマが顕著に形成され、様々な問題行動を生じたり、本人自身「生きづらさ」を覚えることになるのです。具体的には・・・
スキーマ療法では、「スキーマの修復」を目指します。自分の「生きづらさ」は「早期不適応スキーマ」であることを自覚し、できる限りこれを「緩和」し(根治や完治ではなく)、上手く「付き合う」ための「心理的スキル」を学んでいきます。具体的には、患者さん(クライアント)へ「日記」を付けていただき、本人の感じた違和感や矛盾を取り上げ、話し合うことで、いわば認知療法の「認知再構成」にも通ずることになります。
また「健康である大人の」治療者と定期的に話し合うことは、これまで「歪んだ価値観の中で育ってきた患者さん(クライアント)」にとって、「常識 Common Sense」を身に付ける上で重要な機会になることでしょう。スキーマ療法においては、様々な感情や体験を経ることにより、これらが「治療的・再養育・療法」になるとしています。
そもそも、精神療法・心理療法とは、治療者と「対話」「交流」を通じ、「自己」を「深く知る」ことにほかなりません。その際、治療者の「姿勢」「人柄」さらに「人間性」が問われると言っても過言ではないでしょう。世界には数百の精神療法・心理療法があると言われています。スキーマ療法は難治性である境界性パーソナリティ症に効果的であるとされていますが、その背景には冒頭に触れたよう、それ相当の時間・費用・労力に裏打ちされた、治療者の献身的な姿勢があってのことでしょう。