「サイコパス psychopath」、その定義は正確に理解されているかというと、誤解されていることも多いようです。そこで、歴史的に概説しましょう。フランスのPinelは「怒り発作」などの異常行動を繰り返す「妄想なき狂気」1801を記述しました。イギリスではPrichardが「背徳症候群」1853を提示しました(「背徳」とは、品位と作法に適った振る舞いでないという意味)。これは自己制御障害や行動異常に着目し、後の「社会病質sociopath」に通じました。さらに、19世紀後半になると遺伝的特徴や体質的異常ゆえとするベルギーのMorelやフランスのMaganによる「変質論」へと展開されました。そして、イタリアのLombrosoは「生来性犯罪者説」を提唱しました。
「サイコパス psychopath」は、永らくこれまで「精神病質人格(Schneider,K.1923)」「人格異常の中で、その異常性に悩むか、社会を悩ますもの」と混同されてきました。Robert Hare (1980) の実証的な調査・研究により一新されました。「良心の呵責を覚えず、感情に奥行ないため、他人を思いやることができない。利己的で、自分の利益を優先にする。周囲の人々と長期的に友好な関係を築けず、結果的に集団や社会から排除されることが多い(多少改変)」と定義されています。
具体的に下記の評価尺度、Psychopathy Checklist, Revised (PCL-R) をご参照くださいませ。
因子1:対人・情動面
1. 口達者/表面的な魅力
2. 誇大的な自己価値観
4. 病的な虚言
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
6. 良心の呵責・罪悪感の欠如
7. 浅薄な感情
8. 冷淡で共感性の欠如
16. 自分の行動に対して責任が取れない
因子2:衝動的・反社会的行動面
3. 刺激を求める/退屈しやすい
9. 寄生的生活様式
10. 行動のコントロールができない
12. 幼少期の問題行動
13. 現実的・長期的な目標の欠如
14. 衝動的
15. 無責任
18. 少年非行
19. 仮釈放の取消
因子3:どちらにも含まれない項目
11. 放逸な性行動
17. 数多くの婚姻関係
20. 多種多様な犯罪歴
それぞれの項目を0-2点で評定、総計0-40点
成人では30点を超えると「サイコパス」とされる
正確な評定には専門的な「トレーニング」を必要とする
PCL-Rは「行動の問題」を評価するため、分かりやすい反面、「精神の問題」さらに伝統的な精神医学で重要とされる【家族歴】【生活歴】さらに本人や家族も気づかない【遺伝素因】【世代間伝達】のような、長く深い要因まで言及しないため、安易な使用、特に非専門家が身近な人々を私情などにより、恣意的に利用してはならないと注意喚起しています。そこで「サイコパス」と考えられる人々の特徴を端的に表現した評価尺度をご紹介しましょう(PPI. Psychopathic Personality Inventory)。
1. 自己中心的な衝動性(ME+IN+BE+CN)
2. 恐怖なき支配(SOP+F+STI)
3. 恐怖心(C)
マキャベリ的自己中心性(ME)、衝動的不服従(IN)、責任の外在化(BE)、無頓着な無計画性(CN)、恐怖心の欠如(F)、社会的影響力(SOP)、ストレス耐性(STI)、冷淡さ(C)
要するに、「自己中心性」「衝動性」そして「共感性の欠如(冷淡さ)」を特徴とする人格です。このため、上記の要素を有する多くの方々は何らかの「反社会的」な行動により、「司法処分」や「社会的制裁」を受けることになります。ただし、「高知能」を有する者は、上記の特徴を、意識してか、無意識のままか、上手く「取り繕い」ます。そして、高度な「言語」「社交性」などにより、他者を「非情・冷酷」、長期間に渡り「利用」「搾取」するのです。
「ケヴィン・ダットン(心理学者・オックスフォード大学)」 の著書は世界中で話題になりました。これまで「サイコパス」は「反社会性」ゆえ「犯罪者」として報道されることが主でした。それが、本書を契機とし、「経営者」「弁護士」「聖職者」そして「医療者(特に医師)」といった、社会の「成功者」「指導者」と考えられてきた人々に少なからず認められることが明らかになりました。このような人々は高い地位や知能を利用し、「偉人」「賢人」を装います。このため一般の人々は偽りに気づかず、盗まれたり、傷つけられたりします。被害者は善良な方が多いため、被害に遭いながらも、被害と認識せず、いわば「共依存」のような関係で長期化することも少なくありません。本当に立派な人は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」というように「謙虚」です。