【目的】
依存症は「物質・プロセス・対人関係」など多岐に渡る。いずれも「快楽」をともない、「自我親和的」であるため、治療へつながりにくい。特に「高機能」と呼称される社会機能の維持されている患者は「否認」・「抵抗」を強く覚え、「病感」を覚えても「病識」まで至らない。そこで「高機能・依存症」と診断しうる症例を紹介し、適切な診断・治療について、「社会実装」の観点からも考察する。
【方法】
東京都中央区の精神科・診療所を受診した「高機能・依存症」の数例について、受診経路・主訴・診断・検査・治療・転記などを報告。対象者に口頭・文書において調査・研究の説明、同意を取得。そしてヘルシンキ宣言および個人情報の保護に関する法律を遵守する。
【結果】
症例1;アルコール依存症・41歳・男性・会社員
上司のパワハラを誘因に大量飲酒、職務に支障を来たすことはなかった、しかし病的酩酊、記憶喪失(Black Out)、妻に対する暴力・別居を誘因として受診した、断酒・補助薬を服用、AAへ参加することにより断酒している。
症例2;性依存症・38歳・男性・会社員
生来、自閉・固執の傾向あり、10代よりアダルトサイトの盗撮シーンを閲覧、自分にもできると思い、スマートフォンを用い、駅の上りエスカレーターで女性のスカートの内を撮影することを連続、撮影画像はパソコンに保存収集した、ある日、撮影しているところ警察官に現行犯逮捕された、取り調べ後、弁護士の勧めにより受診、衝動抑制する薬物を服用し、SAーJapanへ参加している。
症例3;恋愛依存症・28歳・女性・会社員
幼少期より父親から虐待、母親の無関心あり、孤独感や空虚感を覚え育った、青年期より不安定な異性交際を繰り返し、見捨てられ不安から相手にしがみつき、関係破綻に至った、抑うつ状態で受診、生い立ちを振り返り、対人関係の構築に努めている。
いずれも「依存症」の治療を希望したのではなく、二次障害により受診した。「病感」は抱いていたものの「病識」は不十分、不安うつ症状が低いこと、神経発達症や複雑性PTSDにあることが共通していた。治療は「心理教育」「自助グループ」など心理社会的治療を前提とし、必要に応じ、衝動抑制する「薬物」を本人同意の上、処方した。
【考察】
従来の依存症は「薬物・アルコール」などの物質依存に罹患、職業や家族を失い「底つき体験」を経て受診、比較的、社会機能の低い患者が主であった。精神医療の普及にて、プロセス・対人関係などに依存した「高機能・依存症」の患者が受療行動をはじめたことは注目に値する。ただし心理社会的治療において、既存の医療資源では対応困難な制限も多々あり、「社会実装」の観点より、さらなる啓発・普及が必要と考える。