集中内観と内観カウンセリングのコンビネーションセラピーの試み
茅野分 真栄城輝明
緒言
集中内観は１週間に過ぎないものの、治療効果は一般的カウンセリングの数年間に匹敵すると言わるほど効果を認める。吉本伊信は「集中内観は基本的な訓練であって、卒業ではありません。入門です。大切なのは、日常生活の中での内観で、それを分散内観または日常内観と呼んでいます」と述べ、日常内観の重要性を強調している。しかし、実践できる内観者は極めて少ない。
吉本伊信はさらに「日常内観の実習者こそ真の内観者」と述べ、これを受け、奥村仁吉は「優良内観者」を５類型に分類した。
1.「不実行型」と称された型は、一度の集中内観により強い変革体験をしたため、悩みが解決され、精神の安定を得た事例。これは下記「常時型」とも考えられる
2.「定時型」は、毎日定時に日常内観をしている、驚異的な事例である
3.「折々型」は、折にふれ、事にふれ内観している。これも驚異的である
4.「常時型」は、特に時間を定めず、生活即内観を心がけている事例。いわば「宮本武蔵」のような人物であり、そこまで到達するのは困難である
5.「職業上常時型」は、日常的に内観に触れており、内観研修所の面接者のように、日常生活が常時内観になっている事例である
「宮本武蔵」のような人物は稀であり、援助なく「日常内観」を実践するのは困難である。真栄城輝明は「面接者」との関係が重要と考え、日常内観の方法を４つ挙げた。
1. 内観者が葉書や手紙、テープなどを面接者へ送り、指導を受ける方法
2. 内観者が面接者へ通い、数日間、短期内観を行う方法
3. 集団（グループ）にて、語り合い、内観を行う方法
4. 内観カウンセリングという方法
内観カウンセリング
内観三項目を前提に、内観者が面接者へ定期的に語ることを通し、内観・内省・洞察を深めていく。通所・面接を基本とするが、ICT. Information and Communication Technologyの急速な発展に伴い、Internetにより、遠隔に居住する内観者も面接が可能になった。
症例報告
42歳、男性、アルコール依存症、システムエンジニア
コロナ禍を誘因にX-１年より飲酒量増加、在宅勤務となり、勤務中にも飲酒するようになった。アルコール分解酵素を備えており、酩酊しても業務遂行できた。ただし脱抑制からか、出会い系サイトで知り合った複数女性と親密交際。X年8月、妻に発覚。妻は荷物をまとめ家出した。
素面に戻った本人は１週間後、当院受診、断酒のため服薬開始。生育歴を聴取すると、幼少期に愛着障害を認め、成人後も孤独感・空虚感も抱きアルコール依存・不貞行為に至ったようだった。そこで、集中内観を勧めたところ、秋休みに行った。これまで抑圧してきた心的外傷が癒やされた。
しかし、家出した妻は戻らず、冬を迎えた。本人の気持ちも冷え込み、自暴自棄・他罰的思考を生じるようになった。そこで内観カウンセリング／インターネットを勧めたところ、集中内観を振り返り、日常生活にて読書や日記なども並行し、洞察を深めている。
TEA. Trajectory Equifinality Approach
複線径路 等至性 アプローチ
症例；アルコール
考察
日常内観は「言うは易く行うは難し」、特に心病む患者が単独で行うことは至難である。集中内観と同様、日常内観も「面接者」へ語ることにより、気づきが得られ、続けられる。このため「内観カウンセリング」は、定期的な集中内観・短期内観に次ぐ日常内観を援助する方法と考える。
考察
内観カウンセリングは通所を基本とするが、遠隔地に居住する内観者にはInternetを介した面接を試み、成果を認めている。課題は通信環境の整備と「間接的な面接」であることの限界を心得ることある。展望はAI. Artificial Intelligenceにより、面接の方法、記録の保存など画期的な進歩が期待される。
実際に、スウェーデン・エリクソンは、五感と連動する“Internet of Sense”を2030年の開発を予定している。これは“XR；Extended Reality/Cross Reality”により、現実空間と仮想空間を融合させた体験をもたらす技術である。これを援用すると内観カウンセリングはもとより、集中内観も仮想空間で行う時代が到来するかもしれない。ただし「吉本原法」に忠実であることを忘れてはならない。
