LINE を使った受診日時のお知らせを一時的に休止しています。詳しくはこちらをご覧ください。

東京・銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

オンライン
予約
お問い合わせ
アクセス
診療時間
精神医学

自閉症スペクトラム障害の脳科学

自閉症スペクトラム障害(ASD: Autism Spectrum Disorder)は、社会的コミュニケーションや相互作用の困難さ、特定の興味や行動様式を示す発達障害の一つです。ASDは、その症状の幅広さから「スペクトラム」と呼ばれ、多様な特性を持つ人が含まれます。近年では遺伝学的要因や環境要因だけでなく、脳科学(神経科学)の視点からASDの理解を深める研究が盛んに行われています。以下では、ASDに関連すると考えられている脳科学的知見について簡単に整理します。


1. 脳の構造的・機能的特徴

1-1. 脳の構造

  • 灰白質・白質の量の違い
    ASDの人は、脳の灰白質や白質の量・分布が典型発達の人と異なるという報告があります。とくに社会的認知に関わる前頭葉や側頭葉、感覚情報処理に関わる頭頂葉などに差異が見られることがあります。
  • シナプス形成の異常
    シナプス(神経細胞同士をつなぐ接合部)が通常より多い、あるいは刈り込み(不要なシナプスの除去)がうまくいかないという仮説も提唱されています。これが情報過多や認知・感覚処理の過敏さ/鈍麻につながっている可能性があります。
  • 小脳の構造変化
    運動機能だけでなく感情調整や認知機能にも関わる小脳について、一部の研究で構造的な差異が指摘されています。ただし個人差も大きく、必ずしも一様ではありません。

1-2. 脳機能・ネットワーク

  • 機能的結合(functional connectivity)の偏り
    脳内の複数領域が同時に活動するときの結びつきを機能的結合と呼びます。ASDでは、「過剰結合」「過小結合」など、ネットワークの結合が典型発達の人と異なるパターンを示すことがあります。とりわけ社会的認知や感情処理に関係する脳領域(扁桃体、前頭前野、島皮質など)間の結合が大きく影響を受けている可能性が研究されています。
  • 興奮性と抑制性のバランス
    ASDの特性は、脳内の神経伝達物質(グルタミン酸等の興奮性伝達物質とGABA等の抑制性伝達物質)のバランスが偏ることによって引き起こされる、という説があります。バランスが崩れることで、感覚処理の異常や社会的認知の困難につながる可能性が考えられています。
  • ミラーニューロン仮説
    ミラーニューロンとは、他者の行動を見ているときと自分が同じ行動をしているときに同様に活動するニューロンのことです。社会的相互作用や共感などに関わっているともされます。ASDの人の中には、このミラーニューロンシステムの活動に違いがあるとの報告もありますが、仮説レベルのものが多く、研究はまだ続いています。

2. 遺伝要因と環境要因

  • 多遺伝子要因
    ASDは単一の遺伝子だけが原因ではなく、多くの遺伝子が複雑に組み合わさってリスクを高めると考えられています。最近の大規模ゲノム解析研究では、シナプス機能やシナプス刈り込みに関わる遺伝子の変異などが報告されています。
  • 環境要因
    早産や周産期合併症、胎児期の母体環境(栄養状態、ウイルス感染等)などもリスクとして指摘されています。ただし必ずしも環境要因だけでASDが生じるわけではなく、あくまで脆弱性を高める一因と考えられています。

3. 脳科学研究の応用と課題

3-1. バイオマーカーの探索

ASDをより客観的に診断・評価するために、脳機能イメージング(fMRI、NIRS等)や脳波の特徴、血液中の生化学マーカーなどのバイオマーカーを探る研究が進んでいます。ただし、実臨床で活用される段階に至るには、まだ十分なエビデンスが必要です。

3-2. 脳刺激による治療法の可能性

経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流刺激(tDCS)など、脳活動に直接介入する技術をASDの症状改善に活かせないかという研究が進んでいます。まだ研究途上ではありますが、特定の脳領域への刺激が社会性や感覚過敏に何らかの改善をもたらす可能性も議論されています。

3-3. 早期発見・早期療育

脳の可塑性が高い幼少期に特性に合った支援を開始することで、コミュニケーション能力や学習能力を向上させる研究結果も示されています。脳科学研究は、より早期かつ個別性の高い介入プログラムの開発に貢献することが期待されています。


4. まとめ

  • ASDは遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合った発達障害であり、脳の構造・機能の面でも多様な違いが報告されています。
  • 脳科学的には、シナプスの数や機能、脳内ネットワークの結合のあり方、興奮性と抑制性の神経伝達物質のバランスなどがASDに影響していると考えられています。
  • 研究は進んできていますが、ASDが「これだけが原因」と断定できるような単純なメカニズムは依然として見つかっておらず、個人差も大きいのが現状です。

脳科学の視点は、ASDをより正確に理解し、適切なサポートや支援方法を開発する上で重要な示唆を与えます。今後もさらなる研究や技術の進歩により、ASDの理解や当事者のQOL向上につながる新たな治療・支援の可能性が拡大していくと期待されています。

この記事は参考になりましたか?

関連記事

  • 1. 脳の構造的・機能的特徴
    1. 1-1. 脳の構造
    2. 1-2. 脳機能・ネットワーク
  • 2. 遺伝要因と環境要因
  • 3. 脳科学研究の応用と課題
    1. 3-1. バイオマーカーの探索
    2. 3-2. 脳刺激による治療法の可能性
    3. 3-3. 早期発見・早期療育
  • 4. まとめ
  • -->
    PAGE TOP