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気分症群 (6A6-6A8)

最近のうつ病


典型的なうつ病(メランコリー親和型うつ病)というのは真面目で几帳面な中高年の男性が長く続くストレスに耐え切れなくなり発病するといった病態でしたが、非定型うつ病とは敏感・繊細な若い女性が日常のストレスから発病されるといった病態です。銀座泰明クリニックには20-30代の会社員や大学生の方々が大勢受診され、非定型うつ病の方々も相当数いらっしゃいます。どなたも職場やプライベートのストレスから不安・抑うつ、時に過食・過眠を生じがちです。メランコリー親和型うつ病とは異なり、食事も睡眠も過ぎる程に摂れ、ストレスも日常的な内容であるため、周囲からは病気と認められないこともあり、そのことで悩まれている方々も少なくありません。つきましては、改めて世間に流布しているうつ病の概念やイメージを再考していく必要があると思う次第です。

最近、非定型うつ病のように、メランコリー親和型うつ病とは異なったタイプのうつ病が増えていると言われています。具体的には「現代型うつ病」(松浪ら、1991)、「未熟型うつ病」(阿部、1995)、そして「ディスチミア(気分変調症)親和型うつ病」(樽味、2005)という、若い世代を中心とした、比較的、軽症で、身体症状や不安・焦燥を前景とするうつ病です。軽症ながら出勤困難となり、自宅で療養されることが少なくありません。自宅では家事や趣味などを難なくできるのですが、いざ職場へ出勤となると身体が動かなくなったり、動悸や過呼吸を生じたりして行けなくなってしまいます。現状や自分に対して自責的にはならず、環境や他者に対して被害的になったり他罰的になったりすることもあります。一覧表にすると以下のようになります。


このように、いわゆる恐怖症的な心性を有した神経症性のうつ病といってよいでしょう。この点においてかつての「逃避型抑うつ」(広瀬、1977)や「退却神経症」(笠原、1978)とも重複する病態と言えます。大学や会社へ入るまでは目立った葛藤や挫折がなかったものの、いざ現実的な問題や苦難に直面して処理しきれず、逃避や抑うつに陥ってしまう病態です。これらを更に、躁うつ病と相関させた図として、以下を提示いたします。

さて、これらの病態に対する治療は、メランコリー親和型うつ病が休養と服薬のみでも自然軽快しやすいのに対し、それだけでは不十分で、より積極的な精神療法を必要とします。具体的には不安や抑うつの背景にある職場や学校の問題を認識し、現実的な解決方法を探索してまいります(問題解決療法)。

解決つかない時には、自分自身の考え方(認知)や振る舞い方(行動)を変えることが求められます(認知行動療法)。うつ病を発病すると、否定的に考えたり、逃避的に振る舞ったりしてしまいがちですから、その時々の状況や気分、そして認知や行動を客観的に記録し、治療者と一緒に振り返ることが有効です。そしてより適切な認知・行動パターンを身に付け、現実社会・生活への適応を向上させていくわけです。

また必要あらば、職場や学校の関係者とも三者面談などを行い、環境調整援助体制を要請いたします。これらの作業は実際なかなか容易に進まないこともありますが、銀座泰明クリニックでは可能な限り皆様方のより良い仕事と生活を実現するためにご協力してまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

・広瀬徹也:「逃避型抑うつ」について.宮本忠雄編:躁うつ病の精神病理2, 弘文堂, 東京, 61-86, 1977
・笠原嘉:退却神経症という新しいカテゴリーの提唱.中井久夫,山中康裕編:思春期の精神病理と治療.岩崎学術出版,東京,287-319, 1978
・松浪克文,山下喜弘:社会変動とうつ病.社会精神医学: 14, 193-200, 1991
・阿部隆明,大塚公一郎,永野満ほか:「未熟型うつ病」の臨床精神病理学的検討‐構造力動論(W.Janzarik)からみたうつ病の病前性格と臨床像.臨床精神病理16: 239-248, 1995
・樽味伸:現代社会が生む”ディスチミア親和型”.臨床精神医学: 34, 687-694, 2005

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