摂食障害には不安定な対人関係や自己評価が潜んでいるともご説明しました。すなわち遺伝的な素因もさることながら、両親、特に母親との関係が大事で、幼少期から一定の無条件な愛情を受けられないと、どこかで「心もとなさ」や「頼りなさ」を覚えてしまうのです。その結果、思春期になり「自分」を意識するようになると、その反動から容姿や成績などの外的な基準や評価を過度に求めてしまいます。
摂食障害の女性に限らず、思春期・青年期の情緒不安定な方々から子供の頃の思い出をうかがっていると、不安定だった親子関係が語られます。おおむね父親は仕事や別居のため家庭に不在だったことが多く、母親が養育に専従しています。時には母親も仕事を持っており、保育園や祖父母の元へ預けられています。母親のいない家庭に育った子供は幼少期から既に情緒不安定で、直ぐに泣いたり怒ったりしてしまう傾向があるようです。従って、子供にとっては物心つくまで母親のそばにいることが重要で、まずは母親の無条件、絶対的な愛情を通じ、安心や信頼といった感情が育まれるのです。
母親の愛情が強過ぎてもいけません。特に思春期以降も親との関係が強過ぎると、愛情は支配や束縛となり、本人の自立を妨げてしまいます。いつまでも親の期待や価値観に左右され、自分の人生を生きられなくなります。逆に誇大的な自己像を抱かせ、現実にそぐわない理想を求め続けてしまうこともあります。女性ならば限りない美しさを、男性なら限りない成功を求め、周囲の注目や賞賛を要求します。この心理は「自己愛」や「自尊心」と言い、少なからず誰でも持っているものですが、過剰になると自分を追い込み、周囲と軋轢を生じ、不幸な人生を招くことになってしまうのです。
したがって、思春期以降は自分の内面と外界とを客観的に認識し、身の丈に合った人生を生きることが大事です。それには時に幼少期から記憶をたどりながら、どうして自分が今そのように考えて振舞っているのかを熟慮することも必要です。