性機能障害(Sexual Dysfunction)は深刻であるにもかかわらず、主治医にもなかなか相談できないのが実情のようです。銀座泰明クリニックにおいても、治療がはじまり何年か経ちようやく相談したという方が少なくありません。
性機能障害はうつ病および治療薬の双方で生じます。うつ病になると食欲や睡眠に障害が生じるのはご存じでしょうが、性欲も低下します。うつ病の本質が生気的な感情の低下ですから、性欲も低下するのは当然でしょう。逆に回復の指標として、性欲が戻ってきたかは良い目安になりますが、日常の診療でそこまで話題にされることは少ないと思います。
病気に加え、治療薬でも性機能障害が生じるのは困ったことです。特に最近はSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)により、30~50%の患者さんが性機能障害に悩まれているといいます。SSRIはそのセロトニンの神経伝達により、これまでのTCA(Tri-Cycric Antidepressant 三環系抗うつ薬)よりも性機能障害を生じやすいと考えられています。詳しい神経学的な機序は分かっていません。
具体的な症状は、性欲・興奮・絶頂、勃起・射精(男性)の全過程において認められます。女性でも前者が生じますが、男性の後者に比べ症状が顕著でないため、訴えは少ないです。勃起・射精は男性性の象徴ともとらえられるため深刻で、そのための治療薬も用意されています。
注意すべきこととして、うつ病や治療薬の他にも性機能障害を生じる原因があります。タバコやアルコールのような嗜好品、糖尿病や高血圧のような病気、胃潰瘍薬やホルモン剤などの治療薬も原因になりますし、夫婦不仲や別居生活のような心理・社会的要因も注意しなければなりません。
治療としては、まずはSSRIの減量、休止 (drug holiday) が挙げられます。しかしうつ病が増悪しては元も子もありませんから、主治医と相談の上、慎重に行いましょう。性機能障害をきたさない抗うつ薬として、テトラミド、リフレックス・レメロン(商品名)などがあります。しかし眠気や肥満などの副作用を生じる抗うつ薬でもありますから、これも主治医と相談し、メリット・デメリットをよく検討しましょう。
最後に、ED治療薬の使用があります。バイアグラ・シアリス・レビトラ(商品名)などが有名です。ただしこれらは勃起を改善しますが、性欲は亢進しません。性欲を亢進させるには、ブプロピオン(一般名)のようなドパミン再取り込み阻害薬がありますが、日本国内では承認されてなく、依存・乱用の恐れもあることから慎重な態度が求められることと思います。
以上、うつ病と性機能障害についてご説明いたしました。多くの方が悩まれているものの、なかなか診察室で話せないことと思います。かと言って我慢したり、不法な薬を使用したりしては、健康や安全の被害を生じてしまいます。次回の診察日に、少し勇気を出し、「実は・・・」と相談されてみてはいかがでしょう。
気分症群 (6A6-6A8)